第一章 人ヶ島

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 俺は今、船の最下層にある船倉の牢屋に繋がれている。  波を乗り越える度に船体が傾ぎ、空き瓶が床の上を右に左にゴロゴロと転がる。  その様子は、運命に弄ばれる俺の人生のようだ。  床の上を、薄汚れた鼠が走り抜け、壁の穴の中に入り込む。それに引き続いて、大きい 鼠、更に小さな鼠が床を走り抜け、先ほどの穴に飛び込んでいく。  きっと、親子なのだろう。  俺にも親が居た。楽しい我が家があった。(いくさ)が始まるまでは。  両親と共に過ごした十五年間の思い出。それだけが、今の俺の唯一の持ち物だ。  両目から零れそうな物を拭い、仲良く暮らせよ。と鼠に向かって心の中で呟く。  揺れ具合からみて、船は既に外海に出たようだ。だが、この船が、何処の港を目指して いるのかを、俺は知らない。その目指す先に、鬼が居るのか、蛇がいるのか……。  だだ一つ分かっている事は、俺が進んでいくその先が、海の底よりも暗い場所だという 事だけだ。    船倉の牢獄には、俺の他に三人の男が押し込められている。  一人は禿頭の老人。あとの二人は、40絡みのチビとノッポで、船酔いのためなのか、 床に転がったまま微動だにしない。 「お若いの。お前さん、何て名前だい」禿頭が尋ねてきた。  どうせ、船が目的地に着くまでの短い係わり合い。お互いに、名乗っても無駄な事と、 俺はダンマリを決め込んだ。 「名は言えネェのか。じゃあ、別な話をしよう。お前さん、何の咎で捕まったんだ」 と禿頭が続ける。  答えたくないので、これもシカトする。 「スリか盗み。そんなとこか? そのガタイじゃ、強盗は出来そうもないからな」  禿頭が勝手に話しを進めていく。 「それとも、まだガキの癖に、酒絡みか?」  禿頭は独り言を駄々漏れさせつづける。  それを止めさせるつもりで 「俺は咎人じゃねえ、それに子供でもねえ」と答える。 「あ~そうか。お前さん、人買いに騙されたんだな。だったら、騙されたのが罪だ」
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