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禿頭が小馬鹿にしたように笑うので、
「じゃぁ、お前は何なんだ。その歳では奴隷じゃないだろ。詐欺でもやったのか?」
と言い返す。
「詐欺ね……。いい線行っておるが、違うのう。儂は学者崩れじゃ」
「学者崩れ?」
「奴隷の肉体労働では、この歳まで体がもたん。だから儂は、ここを使う」
学者崩れは自分の指で頭を指し示す。
「儂は、天文地理と算術を心得とるからの。それで、この歳まで生きながらえた」
学者崩れは、一人で喋り続ける。
「儂は、天文寮の博士をしておってのう、天文や諸国の知識はそこで仕入れたんじゃよ。
じゃが、御偉いさんの汚職に連座して、奴婢の身分に落とされた。それで、自分の知識を
小出しにして、生きる道を選んだのじゃ」
学者崩れは自分の半生を滔々と話し続ける。興味がない俺は、学者崩れの話を波の音と
して聞き流そうと試みる。
「なあ、お前さん。長生きしたいとは思わんか?」
学者崩れが別な話題を振りながら、体を寄せてきた。
「長く生きたいとは、思わねえ」
「まあ、奴隷の重労働を考えれば、そう言いたくなるのも分かる。じゃからのう、儂は、
楽をして長生きする方法を教えてやろうと言うんじゃ」
「楽をして……?」
「興味が出て来たか?」
「べ、別に……」
「まぁ、そう言わんと。お前さんの此れまでを、儂に語ってみい。さすれば、お前さんの
為になる助言を考えてやれるかもしれん」
学者崩れの言に惑わされたつもりはないのだが、俺はポツリポツリと此れまでの半生を
語り始めた。
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