第一章 人ヶ島

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 禿頭が小馬鹿にしたように笑うので、 「じゃぁ、お前は何なんだ。その歳では奴隷じゃないだろ。詐欺でもやったのか?」  と言い返す。 「詐欺ね……。いい線行っておるが、違うのう。儂は学者崩れじゃ」 「学者崩れ?」 「奴隷の肉体労働では、この歳まで体がもたん。だから儂は、ここを使う」  学者崩れは自分の指で頭を指し示す。 「儂は、天文地理と算術を心得とるからの。それで、この歳まで生きながらえた」  学者崩れは、一人で喋り続ける。 「儂は、天文寮の博士をしておってのう、天文や諸国の知識はそこで仕入れたんじゃよ。 じゃが、御偉いさんの汚職に連座して、奴婢の身分に落とされた。それで、自分の知識を 小出しにして、生きる道を選んだのじゃ」  学者崩れは自分の半生を滔々と話し続ける。興味がない俺は、学者崩れの話を波の音と して聞き流そうと試みる。 「なあ、お前さん。長生きしたいとは思わんか?」  学者崩れが別な話題を振りながら、体を寄せてきた。 「長く生きたいとは、思わねえ」 「まあ、奴隷の重労働を考えれば、そう言いたくなるのも分かる。じゃからのう、儂は、 楽をして長生きする方法を教えてやろうと言うんじゃ」 「楽をして……?」 「興味が出て来たか?」 「べ、別に……」 「まぁ、そう言わんと。お前さんの此れまでを、儂に語ってみい。さすれば、お前さんの 為になる助言を考えてやれるかもしれん」  学者崩れの言に惑わされたつもりはないのだが、俺はポツリポツリと此れまでの半生を 語り始めた。  *****
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