第一章 人ヶ島

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 俺の名前はウパ。  俺は小さな漁師の町の船大工の家に生まれた。  漁師が使う小型の木造船造りを手掛けていて、職人も三人ほど使っていた。  家族は両親と俺。倹しくも、楽しい暮らしをしていた。  さきの戦が始まるまでは……。  戦が激しくなり、俺の町からも、多くの若者が兵隊として持っていかれた。  漁師をする者が減って、船大工の仕事も無くなった。職人も次々と辞めて、舟の修理や 家具の修理でほそぼそと生計を立てねばならなくなった。  戦火が迫り、町に居るのは危険だからと、子供だった俺は両親と別れて山奥の村に疎開 した。  ところが、戦が終わって故郷に帰ってみれば、町は一面の焼け野原、家があった所には 兵隊用の長屋が建っていた。  両親たちは行方知れず。町の住人も、全く知らない人に入れ替わっていた。  途方に暮れて彷徨っていた俺に、親切ごかしに声を掛けて来たのが人買いだった。  仕事を紹介するからと騙され、馬鹿正直についていったら、この有様だ。今は、何処へ 向かっているのかも分かっていない。
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