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では、鉄を討てるのは何者か? 多くの金を手に入れた悪党共か? それでも、金を持ち続ける国家の傀儡達か? どれも決して役には立たない。なぜなら金には別の力が働くからさ。それでは話にならないよ。
「ならば、激しく打とう。金では無いもので」
偽金は鉄共を怯えさせ、薄金は僅かでも鉄共に被害を与える。偽りの錬金術師。見せかけの創作者。ぼろい服に似合わない金色の輝きを持つ貧民達の佇まいは、儚き歪な花となる。
「自らに光を灯し、穿とう、鉄の大地を。そこにあったのであれば。心があったのであれば」
ふふ。あまりの恐怖からか、リーダー格の人間もまともな言葉を喋れてはいないねぇ。何故だか解るかい? 明らかに偽物と解る輝きを持つ偽金の装備を身に付けて、鉄共の前に出るなんて、自殺行為以外の何ものでもないからさ。でも、それをしなければ、自らの生きる場所を守れない。そう言う弱者こそが、決死となりて挑むのさ。これらを統括するリーダーに求められるもの。それは解っていても騙してくれる、天下一の詐欺師であることさ。
彼らは鉄の前で踊り回り、所々で血しぶきをあげては倒れていく。あっけなく。だが、その儚き人の最期の行動が僅かに鉄の進行を妨げ、空隙が現れる。
そこに金箔をヒラヒラ散らし、明日への掛橋を紡ぐ者達がやって来る。彼らは偽金に僅かな金を混ぜたレンガを積み、道、橋、壁を築いていく。それは僅かであっても、鉄共に被害を与え、彼らが近づくことを拒むことになるのさ。そればかりか、偽金には価値が無くてねぇ。人間側からの邪魔も入らないっていう寸法さ。
この戦いは熾烈を極めた。最初は人間の独り相撲程度のことでしかなかった。けどね。偽金、薄金の技術が伝わると、続々と貧民達は声を上げた。多くの国々の民が重税であえぎ、鉄にやられるのを待つか、国に押し潰されるの待つかというところだったからねぇ。これは正義なんてものじゃない。人間という種の生き残りを掛けた戦なのさ。そしてそれは、激しさを増し、ついには鉄をぐるりと閉じ込める、長大な偽金の壁を形成したのさ。
勝ち誇った貧民達だが、唯一の懸念は鉄が壁を越えて侵入してこないかという点だった。けれど、それは杞憂だったね。増殖し続ける鉄は貧民達が築いた戒めを破ることはなく、向かう方向を変えることになったよ。それは一度は誰でも憧れる世界への挑戦。空に高くそびえるもの。そこへの旅を始めたのさ。
天高く突き抜けた鉄の塊に、それに合わせて増設された、偽金、薄金のレンガは光輝いていた。それは確かに本物ではないのだけれど、だからこそ放たれる鈍い色の光に、人の心は安らいだのさ。天鉄包金。この土地に生きてきた生物の巨大な墓であり、命懸けで作り上げられた拒絶の壁。その中の鉄は今も成長を続け、いずれはどこかの星に降り注ぐことになるだろう。そのときには。
偽りの錬金術師。見せかけの創作者。儚き歪な花は、また咲くだろうか。
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