儚き歪な花

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 見渡す限りの金金金。紙幣や銭なんていうチンケなものじゃない。黄金の国がここにあると言われても、納得出来るほどの煌びやかさ。どんな豪遊極めた者であろと、こんな景色は見たことはないだろうねぇ。  気分は歴史を彩る探検家。建物の全てが純金製。老若男女全てが金ピカを着て、使用される道具も変わりない。ここに来た流れ者の一団は、それはもう感嘆の声を漏らすしかなかった。あまりに放心して、よだれ垂らすその姿は、さすがに黄金の国には似つかわしくなかったけどね。そんな流れ者がこんな噂を流したそうさ。 「あそこには神が使用した杯がある」  とんでもないことをお言いだねぇ。それはたちどころに広まって、旅人や企業、国家のお偉いさん(がた)を呼び込んだ。そして始まったのは見るも無惨な略奪略奪。村人にとっては大事な住処、飾り、道具の全てが一月の間に全てカラ。近くにあった金鉱も、一年で底をつくありさまさ。村人が抵抗出来るほどの力を持っていないからといって、こんな非道、許されるのかねぇ。  金が失われた村は、ゴールデンスクウェアと呼ばれた景色から、どんな貧相な集落さえ敵わない、とんでも無い廃墟となったよ。納屋だか倉庫だか知らないが、人間が住むには小さすぎる建物で大人数が暮らし、なんとか作物が育つまで生き延びた。その作物が素晴らしいものであったらよかったけどね。そうはならなかった。  村人が神と信仰するほどの金が失われた大地には、人が食べるに適さないものがあったらしい。老人、子供といった者から徐々に身体を壊し、ついには働き手である若者達にも被害が及んだ。ここにきて、外に助けを求められればよかったけれど、彼らにはそんな友はどこにもいなかった。待っているのは飢えと苦しみだけ。村人達の最期の姿など語れはしないよ。   そんな村人達の怨嗟の声に大地が(こた)えたのかねぇ。一体の巨大な鉄が現れた。人ともとれる形だけれど、姿は常に変容し、動く鉄としか言いようのないものが現れた。その動く鉄は周りの金属を吸収しつつ、天に手が届きそうな高さに成長したならば、己を四散させたのさ。鉄の花が散る時には、花びらのような柔らかさはなく、刃となった破片たちが方々(ほうぼう)の大地に突き刺さる。ここで終わるなら、まだかわいいけれど。刺さったところから咲くんだよ。また鉄が。そしてそれが、巨人となって、鋭い種子を飛ばすのさ。  そのサイクルに飲み込まれるのは、何も金属だけではなくてね。そこに住む、人間はおろか、あらゆる生物が飲み込まれる。例え、人が剣や槍、銃や爆弾を持って挑んでも、いきなり下から生える千本の太い針には敵わない。それどころか、鉄を壊して新たな種子を飛ばすのに、加勢してるとしか言えないねぇ。つまりは人間は敗北したのさ。大陸を3分の1も奪われるほどに。  ここに来て、さすがに重い腰を上げた国々によって、協力体制が敷かれたよ。もちろんただの軍事協力じゃないよ。そんなことしても鉄の増殖を早めるだけさ。だからね。連合軍は考えた。鉄の苦手とするものを。鉄を滅ぼしうる物質を。集めに集めたのさ。 「金槌は如何かな? あぁ、もちろん純金製さ。価格は50万ドルだ」  とまぁ。武器としての価値は薄いはずの金が店頭に並ぶことになった。理由は簡単。鉄には純金が良く効くからさ。このことを考えると、ゴールデンスクウェアの金は、鉄の成長を妨げるために存在したのかもしれないねぇ。今更どうすることもできないが。  その効果をまざまざと見せ付けているのは、純金の矢。それが当たると鉄は溶け、地面に沈む。純金の矢を放つのは、これまた金で飾られた古風な軍隊。彼らの仕事は鉄を押し留めることさね。だけど。純金の矢なんてものはそうそう量産できるものじゃない。放った矢を回収する必要が出てくるんだよ。「急募、命知らずの矢取隊」なんて書かれたポスターが、壁に所狭しと並ぶのも頷けるというものだね。けれど。  それは馬鹿げたものでねぇ。命懸けで端金しか手に入らない仕事に、誰が手を出すはずもない。率先して回収するのは悪党ばかり。当然ながら純金の矢は軍隊には帰って来ずに、どこかの闇市場に流れて行くのさ。なにせ、このご時世ではどこでも金は高く売れるからねぇ。  とどのつまりは軍隊の周りは盗人だらけ。国家の予算は予想を超えて悪党へと流れていった。このことで国々が受けた打撃はとんでもないものでね。鉄の討伐なんて言う、大それたことができる体力はもうないのさ。
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