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「生徒会長が好みのタイプなんて嘘だよ。本当のことを言う勇気がなくて、心にもないことを言ったけど、俺が惹かれてるのは会長じゃなく入江だ」 「……は、まじかよ」  思わず、といった口調だった。黒目がちな双眸に嫌悪の色は浮かんでおらず、それどころか、熱が灯ったように見える。 もちろんそこには好奇心とか優越感とか、そんな類のチープな感情しかないだろう。 「ずっと入江の制服を脱がせてみたいって思ってた。そんな相手にこんな風にくっつかれて触られたら、反応するに決まってるだろ」  勃起しかけた柊馬のものを撫でていた入江の手を掴み、わざと押し付けるように腰を突き上げると、彼は焦って目を見開いた。 「ちょ、調子にのんな!」 「のってない。前から憧れてた入江にこんなとこ触られて、我慢できるわけないだろ。その気にさせた責任取れよ」 「はあ!? なんで俺が……」 「好きなんだ!」  かぶせ気味に告白すると、時間がとまったのかと思うほど、空間が静寂に塗り替えられた。  ――ここからが一世一代の大芝居だ。  絶対イケると踏んだ柊馬は、入江を抱く腕に力を込め、想いを注ぎ込むふりでぎゅうと抱きしめた。 「お前が言うとおり、俺は変態クソホモだから、一生恋もできずに童貞のまま死んでいくんだろうって思ってた。でも、入江がキスしてくれて、抱きついてくれて、欲が出た」 眉を寄せながら掠れた声で囁くと、入江が顔を上げた。 「頼む、一回だけでいいから入江のこと抱かせて。入江に嫌われてるのはわかってる。もう一生近付かないって約束するから、入江としたい……」  追い詰められて、やるせない想いを吐露するバカな男を完全に演じきった自分に、柊馬は心の中で拍手を贈る。 これで入江に突っぱねられれば、もう二度と絡まれずに済むだろうし、万が一断られなければ、もう少し遊ばせてもらうつもりだ。 (さあ、どう出る?)  数秒間の沈黙のあと、審判を待つ憐れなゲイの耳に、入江の小バカにした苦笑が届いた。 「は、必死かよ。しかも童貞って。なに、まじで嘘ついてたわけ?」  ――ああ、ひっぱたいてやりたいくらいムカつく顔だ。  苛つきつつもコクリと頷く。  自分にベタ惚れでその上童貞とくれば、もう突っかかるのもバカらしくなるほど格下に見えるらしい。その証拠に、いつもはつり上がった眦をほんのりと下げ、心なしか優しささえ感じさせる表情をしている。 もちろん歪んだ種類の優しさだろうが。 「さっきの暴言は照れ隠しだったわけか……。ふうん、兄貴みたいな男より、俺のがそそるんだ? そんなに俺が好き?」 「…………うん」  うぬぼれんな。おまえなんかこれっぽちも好きじゃねえよ。心で舌を出しながら、悟られぬようコクンと頷く。 入江は瞳を細め、「ふぅん」とこぼしたきり沈黙し、突然しなだれかかるように柊馬の耳元で囁いた。
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