プロローグ

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プロローグ

 世の中にはどうしようもないやつらがうようよいる。柊馬の周囲はそういう人間で溢れていた。  まだ自我の固まっていない十代の学生たち。ほとばしる選民意識と歪んだ好奇心は、まるで針のむしろのようにチクチクと突き刺さり、柊馬の平穏な日常を奪った。  彼らは学校という檻の中で、幻想にまみれたアンバランスなカーストを作り出す。他人を蔑むことで抑圧された感情を解放しているのだろう。 犠牲になったのは、宗近柊馬その人だ。  ――ホモ。気色悪い。ホモ菌が移る。ケツを守れ。  まるで幼稚園児かと思うほど稚拙な言葉が、教室のあちこちで飛び交い、時には紙切れに雑言を書き散らして投げつけられることもある。もちろん教師の目を盗んで。  自分と違うものを蔑む排他主義な子供たち。彼らにとっては柊馬など人間ですらない。『異物』に対してどんな態度をとろうが、良心が咎めることはないだろう。なにしろ彼らは正義なのだから。  まったくアホらしくてものも言えない。  柊馬は教室の中で完全に孤立している自分を鼻で笑った。おおよそ二年に渡る高校生活の中で、自分にも友人と呼べる存在がいたはずだ。 しかし周囲には誰もいなくなった。最初から一人きりだったかのように、孤独だけがひっそりと寄り添っている。  こんな状況になったのは、友人を信じて同性に告白してしまった柊馬の浅はかな過去が原因だった。気がついたときには男を好きになる男だと、学校中に知れ渡っていたのだ。
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