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03
そもそもどうしてここにおまえがいる?
嫌いなやつになぜ話しかける?
何をするにも監視して、追いかけてまで攻撃したい粘着系アンチと同じタイプの人間に違いない。
まったく理解に苦しむ男だ……と柊馬が頭を悩ませていると、ますます目をつり上げた入江が、柊馬の顔面スレスレの位置で足を振り上げた。上履きの叩きつけられる音が鼓膜をビリビリと震わせる。
「は、声も出ねえほどビビったのか」
ガキくさいドヤ顔を見せつけられ、あまりのバカバカしさに乾いた笑いしか出てこない。
「安心しろ。おまえに好みの女とそうじゃない女がいるように、俺にも趣味嗜好がある」
「……何が言いたい」
「入江は好みじゃないから心配いらないってことだ」
面倒くささを隠そうともせず、一息で言い切った。これで自分の人生にはまったく縁のない人間だと理解して、金輪際無視してくれればありがたいのだが。
しかし、そんな期待も虚しく、入江は柊馬の期待と真逆の反応をして見せた。
「はあ!? ホモ近が好みだのなんだの贅沢なこと言ってんじゃねえよ! しかも俺のこと好みじゃないって、ホモのくせに何様のつもりだ!」
いやいや最後の一言はそっくりそのまま返してやるよ……と目を細める柊馬のシャツを、入江が再び力任せに引っ掴んだ。外見だけは整った甘いマスクが、唇の触れそうな距離まで迫ってくる。
こいつバカだろ。嫌悪しているわりに警戒心はないのか。
「俺のどこがダメだって言うんだ」
さも納得がいかないという顔で、入江が不満をぶつけてくる。こっちは呆れを通り越してダルいだけだということがわからないのだろうか。
「ガキくさくて色気がないところと、いちいち突っかかってくるところと、自分のことかっこいいとか思ってるっぽいところが自意識過剰で笑える」
は、と鼻で笑って吐き捨てるように言いきった柊馬を見て、入江が息を飲む。今までほとんど反撃してこなかった人間に好き放題言われ、驚きを隠せないらしい。
「お互い印象最悪なんだし、近寄っても何もいいことなんかないってわかっただろ。今後は無視してもらってかまわな……」
「じゃあ誰ならいいんだよ」
「は?」
「だから、どんなやつがおまえの好みなんだよ!」
てっきり怒り狂って殴られるか、さっさと引き返すだろうと思っていた入江が、少しも引き下がろうとしないことに首を捻る。早く会話を終わらせたい一心で、脳裏をよぎった人物の残像を捕らえ、口に出した。
「生徒会長」
入江がわずかに目を見開く。相手の動揺を悟り、柊馬は重ねて告げた。
「会長って物静かで知性的で、エロそう。制服を脱がせたらどんな顔するか、想像するだけでもクる」
嫌悪感を煽ってやろうと、わざと露悪的な言い方をする。
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