真夜中

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真夜中

真夜中、巡り喫茶はぐるまのマスターである海野健次は、目を覚ました。 「……水」 海野はボソリと呟くと、大きなあくびをして立ち上がり、部屋から出る。 「ん?」 はぐるま側が明るい。 「奇子のやつ、また徹夜してんのか……」 歳が20ほど離れている恋人の奇子は、文学専門学校に通っている。彼女は課題に追われると、はぐるまで徹夜をするくせがある。 海野はため息をついてはぐるま側へ行く。案の定、奇子はテーブル席にいた。ノートパソコンを押しやり、突っ伏して寝ている。時計を見れば、3時を回ろうとしている。 「体調崩しちゃ小説どころじゃなくなるだろ……」 海野はライトブラウンに染まった奇子の髪にそっと触れると、厨房へ行った。 電気ケトルでお湯を沸かし始めると、冷蔵庫を開ける。はちみつとクッキーを出すと、マグカップをひとつ取って、中にはちみつを垂らした。 「あぁ、そういや……」 海野はなにかを思い出したらしく、厨房をきょろきょろと見回す。彼の目は先ほど出したクッキーに止まる。 少量のクッキーは透明な袋に入っていて、無地の赤いリボンが結ばれている。 「これでいいか」 海野はリボンを解くと、寝息を立てている奇子にそっと近づく。 彼女が起きないよう、細心の注意をはらって、右手の薬指にリボンを巻いた。ちょうど1周した部分を摘むようにしてリボンを持つと、レジカウンターへ行き、ペン立てに入っている定規で長さを測る。 「1.5センチか、小さいな……」 海野は小声で呟きながら、ふせんにメモしてポケットに入れた。
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