第五章 ベイビーは卵から生まれる

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第五章 ベイビーは卵から生まれる

 リヴィオがゲルセックの村に来てから、間もなくひと月になろうとしていた。  それまでと同じように過ぎた、いつもの一日。リヴィオは部屋で湯浴みした後、ユピテルを誘う。 「あのさ」  近頃では、この「あのさ」はリヴィオからの合図になっていた。 「ああ」  ユピテルも、いまではもう「どうした?」とは言わない。ひょいとリヴィオを抱き上げてベッドに下ろした。気遣ってくれているのか、それとも待つのが面倒なのかはわからないが、この頃彼はそうしてリヴィオを運ぶ。そんなことを頼んだ覚えはないし、最初に抱き上げられた時にはびっくりして暴れたリヴィオも、とうとう慣れてしまった。  お姫様抱っこも、悪くはない。  リヴィオはユピテルの首に腕を回し、唇を重ねる。ユピテルも応えてくれる。触ってと言えば触ってくれるし、口づけを求めれば返してくれる。彼がそうしてなんでも許してくれるから、リヴィオはだんだんと大胆になってくる。  この夜、リヴィオはユピテルのペニスを口に含んでみた。ソレを咥えるなんてまさか自分がするとは思ってもみなかった。けれど、ユピテルのを見ていたら、口でしてみたいと思ってしまったのだ。  こいつを気持ちよくさせてみたい、と。  ユピテルは含んだ瞬間にぴくりと反応したが、それだけだった。静まり返っている。ここもゼリーみたいな感触だ――つやつやして、張りがあって、だけど人間の勃起したモノみたいに硬くはない。  リヴィオは吸い口のような先を舐め、吸ってみたが、硬くなる気配はなかった。  ユピテルは困ったように見下ろしている。 「なんにも感じない?」  ペニスを離し、リヴィオは尋ねた。 「ああ……。むず痒いような気はするが……」 「どうやったら気持ちよくなる?」 「どうやったらと言われても、私も困る」  ユピテルは小さく息を吐いた。 「ちょっとくらい、気持ちいいって感じることないのか? 触ったり扱いたりしても、全然よくない?」  リヴィオはユピテルのペニスに指を這わせ、ゆっくりと撫でる。てのひらで包んで扱いてみる。しまいには先端を指で挟んでくりくり捻ってみたが、ユピテルは首を傾げていた。 「特に何も感じないな。コレをどうにかして気持ちがよかったという記憶もない。卵を産むための器官だから、気持ちいいも何もないのではないか?」 「人間はあるよ。射精する時、めちゃくちゃ気持ちいい」 「射精というのは、イくということか? 子種を吐き出すこと?」 「そう。頭の中真っ白になって、他のことなんかどうでもよくなるくらい気持ちいい。すっげえ解放感っていうか、すっきりするし。他の種族だってそうなんじゃねえの?」 「そういう種族と、そうではない種族と、両方いるのではないかな。我々は、そうではない方だ」 「そうか……。俺も、お前が気持ちよくなるようなことできたらいいのにな。ほら、いっつも俺ばっかりイかされてるのは、なんか悔しいだろ」  ユピテルは微笑んで首を振り、リヴィオを抱き寄せた。 「私のことなどいい。お前が快適ならばそれでいいではないか」  触れ合っているのは嬉しいが、一方でひどく苦しくもある。自分だけがよければいいのなら、こんな気持ちにはならない。  ユピテルにはこんな気持ち、想像もつくまい。 「リヴィオ? お前は先程コレを口に入れてきたな。ということは、人間は口に咥えられると気持ちがいいのか?」 「え、あ、まあ、うん。そう」 「そうか」  ユピテルはリヴィオの上に屈み込んだ。ぱっくり口を開けて、リヴィオの陰茎を口に――咥えるのかと思ったら、そのまま止まって思案げにしている。 「私の口では咥えづらそうだな。万が一傷つけてはいけないし、やめておこう」 「え」  なんだそれは。期待させておいて。  が、膨れる必要はなかった。咥えない代わりに、ユピテルは長い舌を使ってきたのである。それがリヴィオのモノに巻きついた。 「あ……っ!」  リヴィオの膝が震える。  自在に動く、ユピテルの舌。ぬるぬるした唾液。きついがきつすぎない締めつけ。 「それ……っ、ダメ、無理ぃ……っ」  強烈過ぎる快感だった。リヴィオは無意識に逃げようと後ずさる。  しかしいまではユピテルも、リヴィオの「ダメ」も「無理」も「嫌」ではないことを知っている。下半身の熱い昂ぶりが、「もっとして」と求めていることを。だから彼はやめなかった。リヴィオの腿を押さえ、口淫を続けた。脚を押さえている彼の力が強くて、逃れられなくて、否応なしに高められる。  ユピテルの顔に表情はない。何を考えているのかよくわからない。こんないやらしいことをして、セックスなんて知らないくせに。 「んうぅっ、ふ、イ……っ」  リヴィオは呆気なく果ててしまった。迸った精液がユピテルの舌を濡らし、彼の腹やペニスにも飛んだ。それを、彼は舌で丁寧に舐め取る。 「やめろよ、もおぉ……」  忘我から戻りきらぬ濁った声で、リヴィオは言った。  ユピテルは射精しないし、ペニスから先走りが垂れるということもない。リヴィオはそれが残念だった。もしもユピテルが自分の口の中で吐精してくれたら、喜んで全部飲み干すのに。  ――なんて……。俺、何考えてるんだろう。
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