第三章 人間は快楽に弱い

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第三章 人間は快楽に弱い

 ユピテルとのアレがあってから、三日後。  リヴィオはベッドに寝そべっていた。間もなく昼である。朝食はベッドの上でとった。昼食も部屋で食べることになるだろう。昨日も一昨日もそうだった。怠惰な日々。街にいた頃からは想像もつかないような。  起きる気になれないのだ。できることならこのままずっとベッドで寝ていたい。何も考えたくないし、何にも気付きたくないし、ぼーっとしたまま日々を過ごしていたい。  そんなことを考えていたら、扉が開いた。 「リヴィオ? 大丈夫か?」  ユピテルだった。  大丈夫ではない。全然、これっぽっちも、大丈夫ではない。リヴィオは恨めしくユピテルを見上げた。  リヴィオのその表情を、ユピテルは体調のためと判断したらしい。 「マッサージでもしようか」 「マッサージ?」 「ああ。肩から腰にかけて、背中を揉む。リラックスできるし、よく眠れるようになる」 「別に眠れないわけじゃねえよ」  と、リヴィオは言ったが、これは嘘だった。この三日間、遅くまでなかなか眠れなかった。どうもよからぬことばかり考えてしまって、目が冴えて、あることをしなければ睡魔がやってきてくれないのだ。  ユピテルは構わずリヴィオの肩に手を置いた。 「卵を抱いてから元気がない。お前が心配なのだ。いいから、腹を下にして寝てくれ」  ユピテルの渋いいい声で心配なのだなどと言われて、リヴィオはなんだか抗いづらくなった。おとなしく俯せに寝る。ユピテルの手が背に触れた。球状の指が、背骨に沿ってゆっくり押し揉んでいく。ぷるぷるトカゲのくせに、ことのほか力が強かった。あのつるつるした皮膚の下は筋肉の塊なのだろう。 「どうだ?」  ユピテルが尋ねた。 「ああ。いいみたいだ」  リヴィオは正直に答えた。ユピテルの言う通り、背中に詰まっていた何か悪いものがどんどん抜けていくようだった。  悪いもの? 悪いものとはなんだ? 別に何も悪いものなどない。自分の思考に、リヴィオは不機嫌になる。不機嫌にはなったが、ユピテルに揉まれるのは快適だったからそのまま続けさせていた。  ユピテルの指が、背中から腰の方に下りていく。腰、というか、尻、というか。 「……あのさ……。なんでケツまで揉むの?」 「うん? 嫌か?」 「いや、あの、別に嫌っていうんじゃねえんだけど……ケツはちょっと……」 「尻の筋肉もよく凝るのだ。揉みほぐしておくと腰が軽くなるぞ。それから、そうだな……脚は大丈夫そうだと思っていたが、なんなら全身やろうか」 「い、いや、いい。腰まででいい」  リヴィオは断ってしまった。全身揉まれるのはそれは気持ちよさそうだが……だが……これ以上は危険だった。  ユピテルのマッサージは、この日だけではなくその次の日もそのまた次の日も続いた。そうなってから、リヴィオはますます起きる気がしなくなっていった。毎日部屋で朝食をとり、ユピテルがマッサージしにくるのを待って、その後ひと眠りしてから起き出した。いきおい、昼食は抜いてしまうことが多くなった。  ひと眠りといったが、実際に眠ることもあれば眠らないこともあった。とにかくユピテルと離れる時間が必要だったのだ。彼に触れられた後は、たまらなくなるからだ。  マッサージを終えてユピテルが出ていくと、リヴィオは息を乱しながらしばらく耐える。耐えきれない時は、自分で自分を慰める。あの夜ユピテルにされたことを思い出して、後ろを弄らずにはいられない。  ただでさえ夜も眠れないのに、朝もこんなふうになってしまって、リヴィオは気も狂わんばかりだった。言うまでもないだろうが、夜は夜で自慰に耽るのである。そうしないと眠れないのだ。  ――したい。したいしたいしたい。  きっと卵のせいだ。ユピテルの卵が体内にあるから、いろいろおかしくなってしまったのだろう。だって、こんなの、異常だ。あんなぷるぷるトカゲとまたヤりたいとか、あいつのアレが忘れられないとか、自分でなかったらドン引きだ。  でも、したい。したくてしたくてたまらない。  リヴィオは悩みに悩んだ。  あれはトカゲ(ではないが)! 雄でも雌でもない変な生物! あれとヤりたいとか変態ではあるまいし、などと自分に言い聞かせようとしたが、思いやりのあるユピテルの態度に接するとそれもあっさり揺らぐ。ユピテルは優しいし、なんでもしてくれて、リヴィオをとても大切な相手のように尊んで、慈しんでくれる。  そんな奴いままでいなかった。  いや、違う、そんなの卵を大事にしているだけだ。リヴィオが特別なのだなんて、そんなこと、思ってはいけない。  だけど……。  それはそれとして、身体が熱くてどうしようもないのだ。
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