わたしは母がお刺身でも同じことをしたのを、思い出しました。

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わたしは母がお刺身でも同じことをしたのを、思い出しました。

 娘なら見破れます。  過去の思い出が、脳内を駆け抜けます。 ***    去年、祖母が亡くなり、一人暮らしになってしまう、祖父が気の毒でした。この家で祖父も一緒に、暮らすことに決まったのです。  祖父が同居を始めて、(しばら)くした頃の話です。  わたしは、母と一緒に、近所のスーパーへ、閉店間際に二人で走りました。  値引きシールが張ってある、お惣菜(そうざい)を買うためです。  しかし、値引き品で、残っていたのは、“お一人様向け、お刺身セット“4パックだけでした。  帰宅して母は、3パックだけ取り出します。5つのお皿に、魚の種類を均等(きんとう)になるよう、盛りつけました。 「皆には言わないで、得に、お義父(とう)さんには、言わないでね」 「うん、分かった」  夕食の時間になり、祖父と会話が弾みます。家族みんなが少ない刺身を完食しました。(なご)んだ雰囲気で、わたしは、うっかり、口を滑らせました。 「おじいちゃん、お母さんが、お刺身3パックを5つのお皿につけ分けてたよ」  笑顔だった祖父から、さっと表情が消えました。目がとても、悲しそうでした。 「そんなことしてません」  母は(うそ)をついていました。
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