-祐介の場合・1-

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-祐介の場合・1-

 見つけた、と思った。  なんて綺麗なんだろう。こんなに最高のΩを見たのは初めてだった。  なにがなんでも番にしたいという衝動にかられるが、そう思っているのは俺だけじゃなかった。俺よりも格上のαもそのΩを狙っていた。それが余計に腹立たしかった。  確実にこのΩを手に入れてやる。その時心に誓った。  中学校に入り、暫くしてこの学校にΩの凄い美人がいるらしいという噂が聞こえてきた。  この学校はαが二割、Ωは三割、残りはβという比率で構成されている。  俺はαの中では可もなく不可もなく、αとしては凡庸な部類であったけれどそう見えない様に努力はしてきたし、顔はそれなりに整っていたのでΩからは結構ちやほやされる事が多かったと思う。  両親はαの父とβの母で、それも凡庸である理由だと俺はコンプレックスを抱いていた。  両親がαとΩの番なら、と何度思った事だろう。女だからΩじゃなくても子は産まれるが、その子供に強い力を持つものは産まれにくい。俺はその典型的な例だった。  それが悔しくて腹立たしくて物心ついた頃からもうずっと母親という生き物とは話すらしていない。  俺は絶対に父親とは違う、俺だけの最高のΩと番うのだとずっと思って生きてきた。  噂のΩは、噂通り、いや、それ以上だった。  本当に美人だった。  これが俺と番になったら。そう思うとゾクゾクした。  まだ俺と同じで中学校に入ったばかりの子供の筈なのに、Ωとしてのたおやかさや身に纏う色気が何もしなくても自然に漏れている。  咬接防止のシンプルなゴツい首輪だって、あのΩの色気を増幅させるいやらしいアクセサリーにしかなっていない。  何としてでもあのΩを俺のモノにしてやる。  俺の、俺だけのΩ。  ああ、なんて素晴らしい響きだろう。  あの最高のΩを手に入れる為ならどんな事でも出来る。やってやる。いつかあのΩが自分から俺を求める様に、俺と番いたいと思わせる様に。  あのΩは『沢良木啓一郎』という、思っていたよりゴツい名前だった。  沢良木の家は父親がαで母親がΩという、俺にとっては羨望の的でしかない家庭だった。その組み合わせだからあの素晴らしいΩが出来たのか。いつかその家ごと俺の手中に収めなければいけない。  父親のαは小さい会社を経営しているらしいが、業績は上々だった。それを見る限り経営を拡大する事は容易だと思えるのに、何故かそれをしていない。  将来、俺があれと番になったらその会社も拡大して父親に恩を売るのも手だなと思った。  目標が決まると、後はどうやって絡めとる算段をするかだ。  自分には上位のαと違ってカリスマ性もあまりない。基本努力をするしかない。  あのΩを狙う他の奴等の裏をかかなければならない。  普通のαならきっと、自分のカリスマ性だけであれに挑むだろう。でも、既に何人か「俺の運命だ」と言って告白し失敗をしているらしい。  バカな奴等。あれに直接やり込められたと言う話を聞くと本当に気分がいい。自分を過信評価して、それに胡座をかいているだけの頭の悪いαめ。  俺はお前らとは違う。最後にはあいつの方から俺に縋る様にしてみせる。他のα達が羨む中、あれと番になってみせる。  あのΩ、啓一郎は普段はβの幼なじみとつるんでいるようだ。  つるんでいる相手は『越ヶ谷慎二』。あれには到底そぐわないつまらないβ。家が隣だというだけで俺のΩと仲がいいなどとは許せるものではない。  しかしそのβが隣にべったりといるお陰で、少し位は牽制になっているらしい。なんとも脆弱な盾だがな。  そう思えばまぁ我慢も出来る。精々俺と啓一郎の未来の為に盾として頑張っていただこう。 「君、大丈夫かい?」  学校内のあまり人気のない階段の下、男子生徒が倒れているのが見えた。俺はいつも誰にでも優しく振る舞うのを忘れない。いい奴アピールは今後の輝かしい人生に於いて何かと役に立つ筈だから。  さも心配しているかの様に倒れている奴を覗きこんだ。 「あ、すいません……大丈夫です」  そう言って上げた顔には見覚えがあった。心の中で盛大に舌打ちをする。倒れていたのは俺のΩと仲がいいあのβだった。 「階段から落ちたんじゃないのか?」 「えっ、あ……ちっ、違いますっ」  この動揺っぷりはどうやら本当に落ちた様だ。  もしかしたらこいつを邪魔だと思う奴が突き落としたのかもしれない。そう考えたら少し楽しくなってきた。 「保健室に行って、少し休んだ方がいいんじゃないのか?」 「いえ、次の授業に出なきゃ……っつ!」  俺が差し伸べた手に捕まり立ち上がろうとしたこいつは足を捻ったのか痛みですぐに座り込んでしまった。  面倒臭い。何で俺がこんな使えないβの世話をしなきゃならないんだ。  ん?そうだ、どうせなら世話をしているふりをしながらこのβに俺の世話もしてもらえばいいのだ。  俺は頭をすぐに切り替えた。 「いや、捻挫している可能性もあるからな。次の授業は休んだ方がいい」 「えっ?でも……」 「君のクラスにはちゃんと伝えておくから。無理はしないで、ね?」  優しいふりは簡単だ。この餌で大物が釣れるかと思うと、このβにすら優しくなれる。 「あ……ありがとうございます」  真っ赤になって俯くこいつに、俺は更に安っぽい優しさを見せる。 「君のクラスと名前は?」 「い、一年三組の…越ヶ谷です」 「それじゃ君のクラスの友達に伝えておこう。誰に言えばいいかな」 「あの、それじゃ…沢良木に、伝えて下さい」 「わかった。それじゃまずは保健室へ行こうか」  俺は肩を貸し、溢れんばかりの優しさを振り撒いた。 「では先生、宜しくお願いします」 「了解したよ」  俺は保険医にこのβを託し、早く沢良木に会いに行かねばと少し慌てて扉に手をかけた。 「あっ、あのっ!」  越ヶ谷が俺を呼び止める声に小さく舌打ちをする。その瞬間しまったと思った。  しかし、越ヶ谷は気付いていなかいらしく申し訳無さそうに俺を見ている。保険医はそれに気付いたのかどうか……このβに貼ろうとしている湿布を見つめて眉間に小さい皺を作っていた。よし、大丈夫だ。気付かれてはいなさそうだ。  これからはあのΩに近付く為にボロがでない様に更に気を引き締めなければ。取り敢えず、今は越ヶ谷に嘘の笑顔を向けた。 「どうしたんだい?」 「あの、貴方の名前……聞いてなかったから……」  俺の優しさに惚れてしまったのか?面倒臭い。しかし、表情にはそんな気持ちは見せずに越ヶ谷に微笑んだ。 「俺は木場祐介、越ヶ谷と同じ一年だよ」 「一年!?俺、てっきり先輩かと…」 「えぇ?俺って年上に見えるかなぁ?」 「あ、そのっ、凄くしっかりしていたから!」  越ヶ谷は俺の気さくな優しい態度にコロッと騙されている様だ。今後の計画への下準備は上々だ。未来の事を考えると知らずに笑みも浮かぶというものだ。 「褒めてくれたんだね、越ヶ谷。ありがとう」 「あ、うっ……うん」 「それじゃ俺、君の友達に教えてくるから。ゆっくり休みなよ」 「あのっ!ありがとう……木場、くん」 「木場、でいいよ。それじゃね」  本当はあんなβに呼び捨てにされるのなんか虫酸が走る。  それでもあの美味しそうなΩを釣り上げる為ならばささいな事だ。  あぁ、もう休み時間が終わっちまう!折角の話すチャンスがあのβのせいで短くなってしまった!少し苛つきながら俺は小走りで三組の教室へと向かった。 「沢良木啓一郎君っているかな?」  俺はあのΩには全く興味のない振りをして、入口の側に立っていた奴に声をかけると、そいつは「おい、沢良木!またお前に面会だってよ」と教室の中に向かって声を張る。その視線を追うと、一際輝きそれでいて豊潤な香りを纏ったあのΩに辿り着いた。  美しい、という言葉がぴったりと当てはまるそれから目が離せなかった。  彼は呼ばれて持っていたスマートフォンから面倒臭そうに顔を上げ、チッと嫌そうに舌打ちをした。  さっき『また面会』と言っていたし、俺の事もまた告白しに来た奴位にしか思ってないんだろう。でも俺はそんなに簡単には告白なんてしない。今はこのΩとの距離を縮める為に餌を持ってきただけなんだから。  あからさまに嫌そうに彼はゆっくりとこちらに歩いて来た。こいつの緩慢なその動作すら俺のαの本能を刺激する。  その刺激に負けないように俺は身体にぐっと力を入れて、にこりと彼に微笑んでやった。 「何か?」  これの声を初めて聞いた。  その声に脳髄がガツンとやられそうだ。柔らかい、それでいて艶のある声。  この声がヒートになったらどう変わるのだろう。艶めいた声に甘さが孕んで、きっと極上の啼き声を上げるのだろう。想像しただけでぞくぞくする。早くこれと番いたい。俺がこのΩを啼かせたい。 「あんた、何の用?」  俺が言葉を発しないので怪訝に思ったのだろう。更に嫌そうな表情を浮かべ俺を睨んできた。ああ、それも最高だ。早く俺の物にしたい。 「さっき西通路の階段で君の友達の越ヶ谷が捻挫をしたらしくて、今保健室で休んでいるんだ。それを君に伝えてくれって言われてね」 「…あ、そ」  あくまでも優しい同級生を演じたつもりだったのだが、思っていたのとは違う素気無い態度で彼はさっさと自分の席に戻ってしまった。  呆気なさ過ぎて俺は立ち竦んでしまった。  お前はあのβと仲がいいんだろ?もう少し心配して、俺に色々聞いてきてもいいんじゃないのか?  もう少し会話らしいものが出来るかと思っていたのに、あいつはもう席に戻ってまたすぐにスマートフォンを弄り出した。  こうなっては俺はもう自分の教室に戻るしかない。  もしかして俺が考えていたよりあのβの事には興味がないのか?仲がいいなんて噂を聞いたけど、あのβに気を使っているだけなのかもしれない。なんだ、そう考えれば納得だ。  それでも、あのΩはβの野郎と毎日一緒に帰っているらしいから、あのβが俺の事を少しでもあのΩに良いように褒めて伝えてくれる事を期待して、もう一押ししておこう。  授業が終わり、俺はもう一度保健室へと足を運んだ。  ん?  保健室の側まで来ると何だかとても甘い香りを感じて立ち止まってしまった。ねっとりと色気のある、それでいて甘い蕩ける様な身体の奥に直接絡み付く様な香り。  この香りはあれだ!間違いない、あのΩの香りだ!  こんなところでこんなにトンでもない香りを撒き散らしてるなんて!あのΩはここで一体何をしてるんだ!あのβに無理矢理何かされているんじゃないのか!?あれは俺のだ!βなんかに横取りされるなんて許せない!!  俺は慌てて扉を開けた。部屋の中には外よりも強い甘い色を孕んだΩの香りが充満していた。  部屋の奥にある簡易ベッドの上にはあのβが座り、その膝の間にあのΩが座っていた。そのβの手がΩの首輪を弄っているのを見て、俺はカッと頭に血が昇った。その勢いのままそのβの手を払い除けた。  それは俺のだ!たかだかβのお前なんかが触っていいもんじゃない!そこに触れるのは俺だけだ! 「てめぇ!今こいつに何してたっ!?」  襟首を掴み、そのまま殴ろうと拳を振り上げた。するとその手を誰かが掴み、殴るポーズのまま拳は宙に浮いてしまった。 「『何してる』は君の方だよね?」  掴まれた手の持ち主を見ると、さっきも会った保険医だった。 「え……先生!?」  ずっとこの部屋にいたのか?気配なんて全く感じなかった! 「保険医だとはいえ、先生の目の前で同級生を殴ろうとするなんてどういう事だろうね?」  保険医は笑顔のまま俺の手首をギリギリと締め上げる。振りほどこうともがいても、その手はびくともしない。  しまった!この保険医はαだ。しかも俺なんかよりも全然格上の。格上のα相手に逆らうなんて出来る訳がない。 「木場君?」 「……すいません」  少し冷静になってみると、俺よりも格上のαの先生がいる所でなど流石にヤってはいないだろう。 「沢良木の香りが外迄広がってて、何かをされているんじゃないかと勘違いしてしまいました……」  俺は素直に謝った。ここで変な誤魔化しをしても足元をすくわれそうだ。それを聞いた保険医は納得して俺の手首を離してくれた。 「外迄……?」  保険医は眉間に深い皺を寄せた。それからため息をひとつ。 「木場君、君はちょっと外へ出でてもらえないかな?」 「外へ、ですか?」 「ちょっとだけ、沢良木君の香りに勘違いして寄ってくるαのガキ共を止める防波堤になってくれないかな?私は沢良木君に少し話があるのでね」 「はい。わかりました」  この秋波では洒落でなく本当に勘違い野郎が集まって来そうだ。俺のモノに近寄らせるなんて事、させる訳にはいかない。 「あの……越ヶ谷は」  このβだって万が一という事がある。  βのくせに俺のΩに触っているというだけで腸が煮えくり返っているのだ。少しでも離れてもらわないとまた拳を出してしまいかねない。 「大丈夫だよ木場君。βにはあの香りはわからないんだから」  保険医は俺の耳元で俺だけに聞こえる様にひっそりと囁いた。  そうか、所詮越ヶ谷はβなんだ。沢良木の香りを感じたくてもβというだけで許されないのだ。その優越感に俺の心も軽くなる。  こんな事で沢良木の好感度が上がるならいくらでもやってやろう。  保健室の外に立っていると、あの保険医の言った通りに匂いに吸い寄せられたクソα達がふらふらとやって来た。ありがたい事にそいつらは皆αとしては格下で。俺は俺のΩを守るために上手いこと言いくるめて追い返す事に専念した。  暫くして、沢良木と越ヶ谷が保健室から出てきた。  越ヶ谷は沢良木の肩に手を回し支えてもらう様な体勢だった。それにまた苛立ちが募る。 「沢良木、話は終わった?」  俺が努めて笑顔で沢良木に問うと問うと小さく頷いた。 「何の話をしていたの?」 「先生の知り合いに車を出してもらって俺を病院に連れてってもらうんで、付き添いを頼んだんです」  チッ。  俺は沢良木に聞いたんだ。何でお前が答えんだよ。βなんかにゃ用はねーんだよ。  あ、いや。まだ使い道はあるか。 「越ヶ谷、さっきはごめん。俺、何か勘違いしちゃったんだよな。あれは何をしてたんだ?」 「ああ、あれは首もとに汗をかいてたから拭いてあげてたんだ」  全く想像もしていなかった答えに目が点になった。  そうか、越ヶ谷はΩの香りを感じる事も出来ないβだった。  首輪を外したところで、咬むなんて発想すらこいつらには無いんだった。越ヶ谷が男だからって勘違いをしてしまったな。βなんだからそこまでの心配は不要だったのか。俺達αと同じ様に考えてはいけないんだな。βなんて所詮この程度なんだから。 「そうだったんだ……本当にごめん。沢良木も驚いたよな?ごめんな」 「……別に」  越ヶ谷に謝った事で沢良木の好感度も上がったのかもしれない。やっと声を出してくれた。  その声はやっぱり俺の腰元に直撃して熱を孕んでしまうけど、ここで耐え抜いて名実共にいつかこれを俺のモノにしてやらなければいけない。 「ほら、慎二。車を待たせてるんだ。早く行くぞ」 「あ、悪ぃ」  沢良木は越ヶ谷の痛めた足を庇う様にしながらも足早に俺の横を抜けて行く。 「沢良木、俺も手伝おうか?」 「いい。俺が頼まれたから」 「そうか」  ここでしつこくしてもいけない。まだ授業もあるし大人しくここは引き下がろう。  二人を後ろから見送っていると不意に越ヶ谷がこちらを振り返った。 「木場ありがとな、助かったよ」 「いいよ、無理すんなよ」  俺はひらひらと手を振り二人を見送った。  やっと接点が出来た。あのβがいればあのΩもいつかは俺に気を許してくれそうだ。これからが楽しみだ。  あの初めての出会いから三年。俺はゆっくりと、確実に俺のΩ、沢良木啓一郎との距離を縮めて来た。しかし、中々一筋縄ではいかなかった。  高校に入ってから毎日俺が越ヶ谷を迎えに行く様になった。  本当は越ヶ谷なんかどうでもいいが、沢良木は毎日越ヶ谷を起こして一緒に通学していると言うのだから、自ずと俺は越ヶ谷を迎えに行くしかなかった。  ここまできてやっと俺は『沢良木』から『啓一郎』という呼び方を認めてもらえた。俺は浮かれた。  このまま頑張って俺もいつか越ヶ谷と同じように『敬』と呼ばせてもらいたい。その日は着実に近づいて来ている。  ある日、思いきって「俺も『敬』って呼んでいい?」と聞いたら「絶対に嫌だ」と返ってきた。その呼び方は沢良木家と越ヶ谷家のみが呼ぶ呼び方なので、無理だと。親にもそれだけは駄目だと言われているからと。  仕方がない。裏を返せば俺がお前と番になって両親に認められたなら呼べるという事なのだ。もう少しの我慢だ。  啓一郎は相変わらず越ヶ谷と一緒に行動していて、時々それが無性に俺を苛立たせた。  そんな時は越ヶ谷をからかったり弄ったりすると、啓一郎がそれに乗ってきて一緒に越ヶ谷をからかって笑ったりする。  啓一郎は越ヶ谷を挟まないと俺と一緒に笑ってはくれない。  それには腹が立つが、ここまで来るのに三年かかったと思えば大した事ではない。俺と啓一郎の距離は確実に縮まっているし、啓一郎にヒートが来てしまえば後は、αの中で一番啓一郎に近い俺が、なんとかしてモノにすればいいだけだ。  高校に入ってから、啓一郎がモテると言う事実をまざまざと思い知らされた。  俺達は三人で昼飯を食べる様になっていたが、ちょこちょこと啓一郎は呼び出されていた。  その度に越ヶ谷との二人の食事になって、俺は心の中で憂鬱になった。  啓一郎は本当に色んな奴から呼ばれていた。αは勿論、何故か上位のβにまで。上位のβと言うのは少しαの遺伝子がまざっているとかでαの様にΩの香りに充てられたりするらしい。  啓一郎の隣にいる越ヶ谷にはそんな素振りが全く無かったので思ってもみなかった話にショックを受けた。  余りαの事が好きではない啓一郎がαの告白にOKするとは思わなかったが、越ヶ谷というβに慣れた啓一郎が、どこの馬の骨とも知れないβの告白を受けたらどうしようと気が気じゃなかった。  しかし、それは杞憂だった様で、啓一郎は相変わらず越ヶ谷の、越ヶ谷だけの側にいた。呼ばれるのは昼休みのみ。放課後は必ず越ヶ谷から離れず、常に一緒に帰宅している。  啓一郎にヒートが来る迄はそうやって俺の啓一郎を守ってくれよ越ヶ谷。  成長するにつれて、蕾が花開く様に、纏うオーラには更なる色気を孕み、ともすればふわりと香るΩ特有の甘い香りが俺の腰元を強く刺激する。早く繋がりたい。早く俺のモノにしてしまいたい。  しかしまだヒートも来てないのに、無理矢理襲う訳にはいかなかった。  俺は俺のΩを他のαから守る様にして出来るだけ一緒にいる様にしていた。  格上のαには無理だけど、そこそこのαには俺が側にいる事が牽制になっているらしい。αでは俺だけが啓一郎と話が出来るという事実も効いている様だ。  当たり前だ。これを手に入れる為に俺が今までどれだけの努力をしていたか!そんなぽっと出の奴等なんかに横取りされてたまるか!
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