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6-より良い性交体験を
リリー姫が夢の魔法を使った次の日。
私たちが行ったアレやコレやの痕跡は全て、姫が目覚めるよりも先に綺麗に片付けられた。
舐め地獄で意識を失ってしまった私が目をさましたのは、それよりもずっと前。陛下の寝室でだった。
そう時間は経っておらず、日付が変わったばかり。
陛下は綺麗に洗った私の体をベッドで嬉しそうになでていた。
しかし、陛下が自ら私を洗ったりするはずがない。
夜中に使用人を呼び、情事の後の意識のない体を洗わせるという非常識。
しかも、使用人は全て私の部下なのだ。
さらに一度体を繋げたくらいで、私の心を全て手に入れたかのような陛下の態度も鼻についた。
私は怒りを押し隠し、姫の夢に関する記憶がないフリをすると、すがる陛下を振り切って速やかにベッドから抜け出し、自分の部屋に戻った。
そして、そのまま一週間。
すっかりその気になった陛下は、私の気を引こうと必死だ。
しかし私は、情事の後の意識のない体を部下に洗わせたことに対する仕返しとして、主従としての一線を厳格に保ち、私の心を引き寄せようと足掻く陛下の姿をもう少し眺めているつもりでいる。
陛下はモテるための努力も苦労もしたことはない。
私へのアプローチもやる事成す事トンチンカンで呆れてしまう。
バラの花束に、宝石のついたアクセサリー、愛らしい人形に、美しいスカーフ、詩集、香水、美しいランプ……誰宛ですかと言いたくなるプレゼントを次々送ってくる。
さらに腹立たしいのが、全く私に当てはまらない褒め言葉だ。
美しいと言えば誰でも喜ぶと思っている。
へそで茶が沸き、湧いた茶で茶会ができそうだ。
ある日など私のためにと言って、私は全く興味のない湖への日帰り旅行を、私に準備させた。
私が陛下に勧めた本を、素敵な本だと言って勧めてきたこともあった。
そして私と陛下の名前の入った花柄のペアカップの発注の了承を、部下が私に取りにくるという苦痛……。
アプローチされればされるほど、陛下が私に好意を持っているとは思えなくなる。
リリー姫も、早く私がその気にならないかと必死のようだ。
夕食後、姫が廊下で私を呼び止めた。
「ペッシェ、昨夜、わたし右肩を下にして寝たのよ」
何気ない会話のフリをしているが、目は期待にキラキラ輝いている。
「さようですか」
「……なにか感じない?お父さまに会いたくなったりしない?」
「陛下とは先ほど書斎で顔を合わせました」
リリー姫がじーっと私の顔を覗き込む。
「どうしてかしら。お父さまにはよく効いているみたいなのに。ペッシェは魔法に耐性のある一族の生まれなの?」
「……さて、どうでしょう?私になにか魔法をかけたのですか?」
私の質問にリリー姫はパッと自分の口元を覆った。
「わ、わたしは魔法なんて使えないもの。ただ、お祖母さまの魔法の影響がちょっとだけペッシェにも出るかもしれないと思っただけよ」
「ほう、それはどのような魔法ですか?」
「とっても素敵な魔法よ。幸せが増える魔法なの。そしてわたしに兄弟も増えるわ」
もう、ほとんど言ってしまっているも同然だが、取り繕うのに必死なリリー姫は気づいていない。
「ペッシェ、子供は好き?」
「もちろん好きですよ」
「そう!なら、一人か二人、産んでみたいと思うわよね!」
ああ。
目的のために常識をどこかに置いてきてしまったリリー姫の笑顔が眩しい。
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