2-お口の使い方、教えて、ペッシェ

1/2
83人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ

2-お口の使い方、教えて、ペッシェ

姫の部屋の前には兵士が一人、耳をつけて扉に張り付いていた。 しかし、私の顔を見て、サッと背筋を伸ばす。 「……貴様、今日はリリー様の部屋の担当ではないだろう……!」 「あ、いえ、そ、その、もう一人の当番が陛下のお部屋に確認に行ったため、私がここで見張りを……」 「陛下に……?なぜだ?」 「そ、その、声が……もしかすると陛下かもしれないと……」 兵が指さす扉に耳をつける。 そこから聞こえてきたのは……。 「っっっ……!!へ、陛下のはずなかろう!姫の安全を守る必要があるっ!部屋に踏み込むぞ!」 カッカと怒りに煮えた頭でドアを押し開け、姫の部屋に踏み込む。 手前はソファーセットなどが置いてあり、そこには誰もいなかった。 そして奥が寝室。 ……最悪の事態だ。 パーテーションの向こうに大きな天蓋付きベッドがある。 人の動きにあわせ、枕元の灯りが、天蓋から垂れる布に影を揺らめかせていた。 「っんっ!ぁっ……ぁっ……っぁああっ……!!!」 艶かしい声……。 な……なんてことだ……。 怒りで手が震え、目の前が真っ白になる しかし、気をしっかり持ち、事態の把握につとめねば。 「リリー様!!!」 ベッドのそばに駆け寄ると、そこには半裸の男が二人。その傍らには眠るリリー姫。 「………ぁ……リリー様は……無事。服も乱されてはいない……ん?っっっへ、陛下!?」 リリー姫の身が穢されていないことに安堵をしたが、ベッドの上でたくましい背中を汗で濡らし、腰を振っていたのはまさかの、ジェルヴラ陛下だった。 「こ、このようなところでっっ……な、何をなさっているのです……!」 驚きすぎて声が裏返る。 私たちが突入しても、気づかぬように腰を振り続け、ドアの外にまで響く艶かしい声をあげている。 ……んん?陛下の腕の向こうにチラチラと覗く相手の顔を……見知っているような。 「えっっっ!? ペッシェ様!!!!??????」 「な、なんだ?」 「で、ですから、ペッシェ様!」 兵がベッドを指差し必死で訴えてくるが、何を言いたいのかよくわからない。 「で、ですから、陛下のお相手がっっペッシェ様ですっっ!!!」 「っっっっはぁぁぁ?そんなわけなかろう。私は今ここにいる」 「で、ですが、同じ顔です」 同じ……顔? 「わ、私に双子の兄弟などはいない。と、とにかく姫のベッドでこのようなこと、陛下をお止めしなければ」 ベッドに上がろうとしたとき………。 「リリー!!!!なんてことだっ!!不届き者め!生きてこの部屋を出られると思うなよ!」 「陛下!!」 「え……陛下?」 私たちが今入って来た扉から、ブロンズの髪を乱し、怒りに顔を真っ赤に染めたジェルヴラ陛下が飛び込んできた。 「きっっ貴様!ペッシェ!よくも信頼を裏切りおったな!叩き斬ってやる!」 まっすぐ私の元にやってくると、ぎゅうぎゅうと首を締め始めた。 陛下も混乱しているようだ。斬られなくて良かったと思いつつも、死にそうなことには変わりない。 私の視界には鬼の形相のジェルヴラ陛下と、半裸で快楽に溺れるジェルヴラ陛下……。 「へ、陛下!おやめください!ペッシェ様が死んでしまいます!」 「構わん!姫をたぶらかしたこの不届き者を殺してやる!」 私の首を閉める陛下を、兵士が必死で止める。 「誤解です!ペッシェ様はリリー姫を穢してなどおりませんっ!!い、いま、陛下がペッシェ様を穢してるのです!」 「何をわけのわからんことを!」 「姫のベッドをご覧くださいっ!こちらのペッシェ様より、あの二人を止めるべきです!!!」 「あのふたりだぁ……!? やっぱりぺッシェではないか!ん?こっちにもペッシェ?」 首を閉める力が緩み、すかさず私は陛下の手から逃げ出した。 「げほっ……げほっ……よくごらんください……アレは……げほっっ……幻影です」 床にへたり込みながら、声を振り絞った。 「幻影……?」 「実体のように見えますが、周囲にほんの少しブレのようなものがあります。推測ですが、あれは魔女の魔法によるものではないかと」 「魔女の魔法?そんなわけなかろう!リリーの祖母がこのようなおぞましいものを見せているとでもいうのか」 「い、いえ、そういうわけでは」 いいよどむ私に向かい、陛下がスラリと剣を抜いた。 慌てて兵士が間に入り、もう一人の兵士が、ベッドの上で手をブンブン振って、交わる二人に実体がないことを確認してくれた。 「ペッシェ、貴様、何を知ってる?なぜこのようなことになっているのか、知っていることを全て言え。隠しだてするとただでは済まんぞ」 戦場に赴くことのない私は、歴戦の将すら震わせるという陛下の鬼の形相を初めて見た。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!