Duel

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Duel

 気がついたときには、僕は真奈(まな)のことが好きになっていた。真奈と顔を合わせるたびに、心臓がバクバクと高鳴る。最初のうちは自然と話せていたのに、意識し始めてからはどうもぎこちなくしか話せない。真奈に変なふうに思われるんじゃないかと、いつもヒヤヒヤする。  大学二年生の僕が真奈と出会ったのは、昼下がりの公園だった。時計塔の針がちょうど三時を指し、鐘が鳴っていたのを覚えている。その時真奈は、ベンチに座ってずいぶん分厚い本を膝の上に置いてパラパラと捲りながら、何やらブツブツ呟いていた。  真奈が僕と同い年で、そのとき読んでいたのがガロア理論の本だというのを知ったのは、それからしばらく経ってからのことだ。僕にはガロア理論のことなどさっぱりわからないけど、どうやら数学の重要な理論であるということだけは、真奈の説明を聞いてわかった。もちろん、真奈はガロア理論について事細かに説明してくれたけれど、その中に出てくる単語さえ聞き馴染みのないものばかりで、僕は途中から殆ど聞いてはいなかった。  真奈と話すきっかけを与えてくれたのは、僕の飼い犬、ペロだ。僕はペロの散歩の途中でその公園に立ち寄ったのだが、ペロはベンチに座る真奈を見ると一目散に駆け寄った。その瞬間、真奈は悲鳴を上げた。
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