第一章 実らなかった両思い

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「凌太さんもさあ、いつか死んじゃうのかなあ?」 「死んじゃったら、やだなあ。」 コンビニを出ると、彼女は唐突にそう言った。 白く美しい頬を水銀灯が静かに照らす。これが人類の限界だと諦めたくなるような、文字通りの絶世の美女、いや、まだ美少女か。 「僕はそう簡単に死なないよ。」 そんな適当なことを言ってみせて、こう付け加えた。 「でも、佳菜より長生きはしたくないな。」 と。 「えー、それじゃあ駄目じゃん!」 彼女は不満げにそう言った。 夕暮れ時の高級住宅街は、駅の方面から家路を急ぐ人々で少しせわしなかった。空には金星がひとつだけ――金星はひとつしかないが――孤独な光を放っていた。 あの会話をどう締めくくったのか、僕らの死の順序にどんな結論を導いたのか、今では全く覚えていない。 そして僕は今、あのときと寸分違わぬ場所、ほとんど同じ夕暮れ時に、以前住んでいたマンションの最寄りのコンビニの前で、家路を急ぐまばらな人通りとなるべく目を合わさないように、ぽつりと立っていた。 見上げた空には金星も何も無い。季節の変化に伴う天球の回転と金星の公転の結果として、ただ見えない位置に星が移動しただけのこと、そういう理屈はよく理解しているつもりだった。それでもなぜだか、今の自分にあの金星の輝きが見えないのは当然の(ことわり)のように思えて、無性に寂しくなった。 胸が重く苦しくて自然とこぼれた深いため息は、白くなって冬の夜空へと消えていった。 ……こんなところに来たって、一人きりで生きてたって、な。 めそめそとそんなことを考えながら、せっかく来たから古巣でも見て帰ろうと歩き始めた、そのときのことだった。 「凌太さん!」 どこかで聴いた声だった。懐かしくて、あたたかくて、好意に満ちた優しい声。
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