日常

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「ワタシのお家って、お父さんがいなくて。ワタシが幼い頃に交通事故で亡くなったって、お母さんからはそう聞かされてるんだけど。だから、その、何て言うのかな。将来は明るい家庭を築きたいって思ってるんだけど、男の人とどう向き合えば良いのか、今一分からないのよね。」 「美保って、他に兄弟とかっていないの?」 「そんなのいないわ。ワタシ、お家に帰ると、殆ど独りきりだから、お母さんが戻って来るまで、お家の事とかって全部ワタシがする事になってるんだけど。それでも別に問題は無いんだけど。新しい家族を持つ事になると、何だか難しい話になる様な気がして………。それに………。」 「それに………、何なの?」 何故か、美保は暫くの間、アタシには何だか話し辛そうにしてて………。 アタシ、思わず気になってしまって………。 「ねぇ、美保。アタシには言えない事?」 「ううん。………実はね、ワタシ、最近好きな人が出来ちゃったみたいなの。」 「………え?………それって、何処の誰なの?」 「………それが、………その。」 アタシ、美保の事が心配だったから、彼女の話をずっと聞いてたんだけど………。 美保のお家は、東京都杉並区の荻窪の町にあるんだけど、彼女が通学路で通る道で毎朝の様にすれ違う男の人がいるらしいのよね。 美保も、その男の人が何処の誰なのかも分からないみたいで、なのに、どうして、そんな人の事が気になるのかしら。 美保の話に因るとね、その人、美保に出会う度に、ううん、美保だけじゃ無くて、人とすれ違う度に元気良く笑顔で……… 「お早うございます。」 ………って、挨拶をするんですって。 世俗的な人からよく聞かされる言葉の中には、『東京砂漠』だとか『トーキョー迷子』だとかってあるけれど、そんな世の中でも、誰だって、例え相手が見ず知らずの人でも、元気良く挨拶されると嬉しいわよね? ………そうは思わないかしら? それがきっかけで、美保は、段々とその男の人に惹かれていったらしいんだけど………。 それで、彼女は、そんな想いをどんな風に相手に伝えたら良いのか、分からないでいるらしいんだよね。それに第一、その美保の想いって、誰かに向けた恋心って事になるのかしら? でも、その男の人の話をしている時の美保の表情が余りにも輝いて見えるものだから、それはそれで良いのかなぁ………。って思うんだけど。 その日の放課後も、美保とアタシは、その男の人の話で盛り上がりながら下校中だったんだけど、 突然、辺りが得体の知れない光に包まれてしまったかと思うと、美保とアタシの魂は、見知らぬ世界へと誘われてしまって………。 その世界と言うのが、アタシが幾度と無く見てしまった夢の中の世界だったんだけれど………。
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