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迷える二人
ふと、アタシは気が付くと、幾度と無く夢の中に出て来た場所にいたのよね。そこは、部屋の造りが何だか和室。畳の匂いが何処と無く懐かしい薫りがするの。
桐で出来てる箪笥の中には、綺麗に折り畳まれた色とりどりの着物が仕舞われていて………。
其処にアタシは独りだったの。
………………あれっ?
………美保がいない。………今迄、傍にいた筈なんだけど。彼女は何処へ行ったのかしら?
アタシは、部屋の障子を開けて、取り敢えず廊下へ出てから右へ真っ直ぐ歩いて行くと、向かい側から如何にも武将らしい男の人が一人近付いて来る姿が見えたの。
その武将は、アタシに話し掛けて来たの。
「………言仁様。………余り御一人でお出でにならぬ様、お気を付けなさりませ。」
その武将の名前は、平教経と言ったかしら?
確かに、アタシはその教経に『言仁』と呼ばれたみたいなのよね。でもでも、言仁(トキヒト)って一体、誰なのかしら?
あっ、そうそう。こんな時のスマホなのよね。つくづく思うんだけど、インターネットって便利よねぇ?昔は、何かを調べるにも一苦労で、それだけで一日が終わってしまって………。
ホント、便利な世界になったものよねぇ。まるで昔の時代からタイムスリップして来た人間の発言みたいに思える一言だけど。って、あれ?
………あれあれ?
アタシのスマホ、何処にあるんだっけ!?
さっきまで懐にあったのに。おまけに着ている服装が上から下まで変わってるし………。その条件は、夢を見ていた時のままだけど。所謂、お約束ってヤツですか?
でも、つまり、今のアタシは………。
アタシの名前は、相田那由なんかじゃ無くて、つまり、言仁(トキヒト)であって、だから、その、つまり、アタシって、これから何をすれば良いのかしら?
相田那由としてのアタシの目的は、元いた世界に戻る事の筈なんだけど、どうすれば戻れるのかも分からないし、美保の行方も気に掛かるし………。
確かにアタシ、美保と一緒に得体の知れない光に包まれて、気が付くと、この世界にいたのよ。なのに、アタシはアタシの傍にいるのに、どうして、美保はアタシの傍にいないのかしら?彼女は今頃、何処でどうしてるのかしら?
何もかもが分からないでいるアタシ。
アタシは暫くの間、様子を窺う事にしたの。
でも、何だか不思議。今のアタシの名前は言仁らしいんだけど、『トキヒト』って言うと、男の子の名前みたいに思うでしょ?誰だってそう思うわよね。でも、今のアタシも身体は女の子なの。
どうして、そう思うのかって?
………そんな事、どうして、女のアタシの口から言わせようとするのよ!!
………だって、彼処にアレが付いてないもの。
それなのに、今の周りの人間は皆、アタシ、否、妾の事を男呼ばわりしてしまう。
悲しゅうて涙流そうとするならば、教経も他のモノも又、妾を諌めようとする。悲しゅう事在らば涙してこその人ぞと申すであろうに、あろうことか、その様な妾の頬をも打つモノすら現れんとするとは。全く口惜しや………。
………………ゴメン。
何か、このノリって、アタシには無理。って言うか、チョー疲れる。ここから先は、アタシなりの言葉でお話するわね?
アタシなりにこの世界について調べてみたんだけど、この世界と言うか何と言うか、この時代って、学校の歴史の授業で習った事のある、平安時代の頃なのよ。
この国の皇室の歴史に繋がる話になるんだけど、昔、天皇と呼ばれる人物が二人いた時代があったみたいで、宮家とは別に公家と言われてる血統があったんだけど、それが原因で争い事が起ちゃったみたいでさ。
今では『源平合戦』って呼ばれてるらしいけど。
結局は、当時の平清盛、今の時代のアタシのお爺ちゃんの我が儘が原因とされてるんだけどね。
つまり、今のアタシは、公家が担ぎ出した、高倉天皇と呼ばれる人物の世継ぎとして誕生したみたいなんだけど、その頃って、跡取りは男子じゃなきゃダメなんて言う古臭い習わしがあって、だから、今のアタシは、女の身でありながら、男として扱われる羽目になってるんだけど………。
でも、可笑しいと思わない?どうして、アタシ達って、何時の時代も馬鹿馬鹿しい大人の都合に合わさなきゃならないのかしら。
アタシだって、女として生まれたのなら、他の女の子と同じ様に、白粉付けて、紅付けて、年頃になったら何処かの殿方に恋をして………。
順風満帆人生を満喫したいと思ってるのに………。
そんな事さえも許されないなんて、チョー最悪!
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