迷える二人

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或る日の事。アタシの嘆きとは裏腹に、教経が妾の下へと訪れて、こう言ったの。 「言仁様。心苦しい事とは存じ上げますが、此度を以て、此の地より東の方に御座りまする京へと移られて頂く事となり申した。貴殿の身の安全は、拙者が命に代えましても護り通すが故、何か御座れば………。」 「何も申すな。それ以上は聞きとうない………。」 「言仁様。何を申されるか!」 「世迷い言はもう沢山じゃ。妾は、汝が思う程、何も偉ろうは無い。この様な小娘相手に、何故に皆の者は敬おうとする?妾は、妾は………。」 「貴殿は、やがては此の國をまとめ上げる御仁となられる方ゆえ、その様な振る舞いは、断固として許しませぬぞ?」 「………もう良い!」 そう言って、アタシ、その場から駆け出したの。 「………言仁殿。何処へ参られるか!」 教経が制止するのも構わずに、頬を打たれても、お尻を打たれても構わない覚悟で、アタシ、その場から走り去ろうとしたの。 アタシにだって、分かってるつもりよ。自分の我が儘が赦される時代じゃ無い事くらい。でも、今のアタシの目的より、本来の目的の方がアタシにとっては大切なの。でも、此の時代に来て、どの様にして美保を探し出せば良いのか、皆目見当も付かないし………。 「嗚呼、………為す術も無く、華の散る乱。」 アタシが宮廷の中庭で途方に暮れてる頃、丁度そこへ、母方の祖母にあたる「平時子」が通りかかったの。アタシが泣きべそを掻いてると、時子は語り掛けて来たわ。 「………一国一城の主と言うモノは、民百姓と苦楽を共にしなければなりませんよ?」 そう言うと、時子は、アタシの目の前を通り過ぎて行ったの………。 ………だよね。………だよね。………そうだよね。 この時代、辛い思いをしてるのって、何もアタシだけじゃ無いんだものね? 皆、自分の与えられた使命の中で生きて、使命の中で死んでゆく世界なんだものね………。 結局、この場は教経の下に戻るしか無いのかな? 少し怖いけど………。 でも、教経は、そんなアタシを、何事も言わずに受け入れてくれたの。 こんな時は謝らなきゃいけないのよね、アタシ。 そして、その翌日、アタシは大人達に囲まれて、京の都へと訪れたの。 そう言えば、相田那由であるアタシも、東京の町へ引っ越して来る前は、一年の間だけ京都の町で暮らしてた事があるんだよね。 アタシって、時代が変わっても、同じ歴史を繰り返してるみたい。 でも、其処でアタシの事を待ち受けていたモノとは、今のアタシとは同じ年の頃の姿形をした、公仲と名乗る男の子だったの。 その男の子と、眼と眼が合った瞬間、何かを感じてしまうアタシ。でも、彼が先にアタシの素性に気付いたみたい。 公仲は、アタシに近付いて、耳打ちをする。 「………アナタ、那由だよね?」 アタシの目の前に佇んでいる公仲とは、アタシと一緒にこの世界に跳ばされて、男の子の姿に変えられてしまった荒川美保の事だったの。
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