祇園精舎の鐘の声

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祇園精舎の鐘の声

その後、妾の御霊は長州にある檀ノ浦の水の底深くに沈む事になるのだが………。 薄れゆく意識の中で、………妾の願いは唯一つ。 争いの無い久遠の世界で、再び、公仲と共に生きて行く事。他には何も要らぬ………。 祇園精舎の鐘の声。 諸行無常の響きあり………………………… 。。。 気が付くと、アタシ、学校の校庭のグラウンドの辺りで倒れていたの。 「………ねぇ、那由!………那由、起きて!!!」 傍らに眼を凝らすと、そこには、心配そうにアタシの顔を覗き込んでる美保の姿。 アタシは、そっと、呟いて見せた。 「………アタシ達、やっと戻って来れたんだ。」 ………美保は涙を流していた。 彼女は、何時もの時よりも凛々しい瞳を潤ませながら、泣いていた………。 「………どうして、泣いてんのよ?」 「だって、那由が。………那由が、那由が。」 「………ねぇ。美保?………アタシ達って、今、死んじゃいないよね?」 「………えぇ。」 そして、それから、悠久の時が流れ………。 丁度、その日はアタシ達の中学最後の卒業式。 泣いても、笑っても、もう二度と後戻りが出来なくなる、社会人デビューの時代へと続く道を、自分達の責任で歩む瞬間………。 あれから、色々とあったんだけどねぇ………。 中学校を卒業した後のアタシ達の進路の事なんだけれど………。 美保は、その学力を認められて、奨学金制度を利用して、岐阜県岐阜市にある聖マリア女学院へと編入する事になってて………。 そんなアタシはと言うと………。 アタシの両親って、実は、パパが代議士で、ママは港区六本木にある高級クラブのオーナーらしいんだけどぉ? アタシ、来年からは家事手伝いの予定なんだけれど、18歳になったら、ママの経営する高級クラブってお店で、最初の頃はホステスの仕事をする事になってるの………。 それでね………。 「どうせ、アナタ、暇なんだから、今のうちから経営学のお勉強くらいはやってて頂戴よ。ゆくゆくは、婿養子でも貰って、アナタに跡を押し付けようと思ってるんだから………。」 なんて、ママからそんな風に言われてて………。 どうして、アタシ達って、何時も大人の………。 まぁ、良いか。………いくら愚痴ってても、世の中なんて、この世の果てまで変わりっこ無いし。 美保とは少しのお別れだけど、アタシ達の心と心の絆って、あの青い空の下で繋がってるから、寂しくなる事なんて無いのよね? ………そして。 美保の出発する日の前日。 その日、美保とアタシは、町外れにある公園で、暫しの別れの挨拶を交わしてたの。
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