その1

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 その間、神様はそれにお気づきになっておいででしたが、知らんぷりなさって釣りを続けていらっしゃいました。ケンキチが村で評判の働き者であることを御存知の神様は、相変わらず感心な奴じゃと思し召しておられたのです。そして、ええ汗をかいただべと言いながら額の汗を腕で拭っているケンキチのところへ不意においでになるなり仰いました。 「お前さんはケンキチどんだね。」 「へえ、これはこれは神様!」とケンキチはびっくり仰天して言った途端、跪いて額づき、「こんただことしまして出過ぎた真似をしまして全く全く申し訳ごぜえません!」と思わず謝ってしまいました。  すると神様はお笑いになりまして謝ることはないとおっしゃってケンキチの顔をお上げになりました。 「ほんとうにありがたいことじゃ。わしはお礼をしたい。何か望みのものはあるか、何なりと申してみよ。」 「あの、おらは只、神様におらこそ、お礼をしようと思いましてしたことでごぜえますから何もいらなえでごぜえます。」 「ハハハ!欲のないことを申すのう。気に入ったぞ、わしは褒美を取らすことに決めた。家に帰ってみよ、よいことが待っておろうぞ!」  神様はそうおっしゃいますと、マイスポーツカーにお乗りになり、素晴らしいエキゾーストノートをお響かせになりながら土手道を突っ走って行かれました。
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