その1

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 この一部始終を土手道の脇にぽつんと立つ松の幹に隠れてこっそり覗いていた男がいました。名をヨタロウと言ってケンキチの知り合いなので興味津々になって神様に言われた通り家に帰るケンキチのあとをついて行きますと、なんとケンキチのちっぽけな茅葺の粗末な家がその何倍もの大きさがあるばかりか大棟の両端に鴟尾を飾った銅板葺の立派な御殿に変わっているのを目の当たりにしましたので大層おったまげてしまいました。 「こらまた、何とまあ、でっけえ御褒美を賜ったものだろう!」とケンキチもおったまげますと、「冥加に余るだべ。ありがたやありがたや。」と深く感謝し、神様が住んでいらっしゃる方角に向かって遥拝しました。  これを見たからには俺もこの褒美に与らなきゃあ気が済まねえとヨタロウは思いましたので、それからというもの商人の仕事もそっちのけで毎日のようにくだんの土手道を歩いておりますと、ケンキチの家が御殿になってから半月程経った或る日の昼下がりに要約、神様のスポーツカーを見つけました。 「はあ、やっと見つけたわい、さてと、神様はいるかな。」とヨタロウは言って川のある方の土手下を覗いてみますと、果たして神様が川岸で釣りをされていましたので早速、背負子で運んで来た大きめの桶で川の水を汲んで来て流石に麦わら帽と違って水が漏れませんし、よく入りますから一かけしただけで大 体スポーツカーのボディ全体に水が行き渡ったのを見て用意して来た2枚の手ぬぐいでボディの半分ずつを雑に気持ちも込めずに拭いて、それで済ませてしまいました。
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