その1

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「へえ、お車をお綺麗にして差し上げたく思いまして拭いているのでございます。」 「たわけ!余計なことをするな!既に綺麗になったものをまた拭いて見せて良い行いを見せつけようとするとは何たる図々しい奴!」 「い、いえ、まだ、汚れておりましたので拭いているのでございます。」 「嘘を申すな!わしは何でもお見通しじゃ!お前は『自分の義を人に見られるために人の前で行わないように』というイエス殿のお言葉を知らんのか!」 「あの、お言葉ではございますが、あなた様は人ではなく神様でいらっしゃいますから私は神様に私の良い行いを見ていただこうとしましたんでございます。」 「たわけ!屁理屈を申すな!神というのは陰の行いを見て人の良し悪しを判断するものじゃ。それをそんなこと言いおって、お前は全く愚にもつかぬ大馬鹿者じゃ!わしゃ帰る!」  神様はお急ぎになってマイスポーツカーにお乗りになろうとしますと、ヨタロウは必死になって神様に追いすがりました。 「待ってください!私は何がどうあれ、あなた様のお車を洗って差し上げたのでございます!何かお礼をしていただかないと私は一文無しですから、どうしようもなくなってしまいます!どうか、お願いです!お恵みください!」 「よい行いをするのに返報を期待するものではない。それに一文無しになったのはお前の身から出た錆じゃ。悪いが、この世の掟では悪い者は報いを受ける ことになっておる。さらばじゃ!」  神様はドアを強引におしめになりますと、マイスポーツカーで轟音をお立てになりながら去って行かれてしまいました。  取り残されたヨタロウは暫くの間、途方に暮れてしまいましたが、自分は馬鹿だったと悟り、後悔しても仕方がないと再就職へ向けて歩み始めました。
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