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「それは、どういうことだ……?」
目は髪で隠れているが、への字に歪んだ口で彼がいい思いをしていないのはよく分かる。
「まだ手繋いだくらいなんだって? キスしてやんなよ、シャイだな」
「なぁっ!? キッ……」
口をおさえて言葉を封じる文人を、陽介はニヤニヤしながら見る。
「『私に魅力ないのかしら?』なんて、エミちゃん悩んでたぞ。やることやらないと、逃げられるぞ?」
陽介の言葉に、文人は唸り声を上げる。
「マスター、何してるんですか?」
恵美子は冷ややかな目で陽介を見る。
「お、エミちゃんどったの?」
陽介はいつものおどけた様子で振り返る。
「オーダー入りました。グアマテラとナポリタン、お願いしますね」
恵美子は押し付けるように伝票を渡した 。
「へいへい。頑張るんだぞ、先生」
陽介は文人を茶化してから厨房に戻った。
「もう……。文人さん、なんか変なこと言われませんでした?」
恵美子は文人の顔を覗き込んだ。文人の目はピンク色のリップが塗られた恵美子の唇にいき、顔が熱くなって目を逸らした。
「文人さん?」
怪訝そうな恵美子の声にハッとして、文人はいつものようにイシシと笑った。
「なんでもないさ」
「それならいいですけど……。マスターにも
邪魔しないように言っておきますから」
恵美子は早足で厨房に戻った。
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