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「宙おじさん、姉ちゃんからメール来てた。コンクールで一位獲ったんだって」
店の戸を再び開けるなりそう言い、恒星はご機嫌に手を洗った。叔父は手を止めて笑顔を向ける。
「凄いじゃないか」
「これ、どこのテーブル?」
「土星席のお客様だよ」
恒星はカウンターに準備が整えられているガトーショコラとアメリカンコーヒーのトレイを、さっと持っていった。
「あっ、恒星くん。お帰りなさい」
うふふ、と嬉しそうに目を細める常連客。読んでいた雑誌を、汚れないようにテーブルの角に避けた。そのテーブルには、土星のオブジェ。細長いコイル棒の上に星が突き刺さっている。恒星はその下に、折った伝票を挟んだ。
「ゆっくりしてってね」
恒星も気さくに声をかけると身を翻してカウンターに戻った。
ここは沖島宙が経営する『ソラカフェ』。一人用ソファ席が2つ、四人用テーブル席2つ、カウンター席が4席と、アットホームで小ぢんまりしたカフェだ。漆喰の壁と板張りの床のシンプルな内装。ぶら下がった丸い裸電球。
店の雰囲気とマスターの作るパスタが好きで昼の常連になっている客も多いが、実は夜の方がメインだ。
暗くなるとプラネタリウムの投影機が、壁に星座を映し出す。宙おじの作るカクテルには、それぞれ星の名前が付いていた。
宇宙空間に漂いながら飲む酒の中に、時々投影機が投げ掛けてくる流れ星のような光がキラキラ輝いた。
宇宙の星と科学館の天体観測を恒星に教えたのは、この宙おじだった。
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