コンプレックス

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 20:15。城跡公園駅のC出口。  地下鉄からコの字型の階段を駆け上がった恒星は、ご機嫌で地上に登場した。晴れた夜空を笑顔で見上げ、目的地へ足早に向かう。 「ちょっと!」  声を掛けられ、後ろから左腕を引かれた。見ると、学校で会った女子が怒って腕にしがみついている。 「わっ、ホントに来たんだ」 「あなたが誘ったんでしょ」 「いや、誘ったって言うか……」  恒星は苦笑いした。口から白い息が出ては、冷たい空気に溶ける。  貴美は真っ白でふわふわのコートを着て、革のロングブーツを履いていた。白ウサギのような貴美を、通りすがる人はほぼ全員、二度見して、特に女子高生は「カワイイ」「モデルじゃない!?」と興奮して囁きあっていた。  対して恒星はジャケットにデニムのズボン。灰色のニット帽には3つほど、落書きのような絵のピンバッチを付けていた。まるで不釣り合いな二人。 「まあいいや。行こ」  スニーカーでスタスタ歩いていく恒星。その背中を、貴美は恨めしそうに睨んだ。  既に真っ暗な道は、一定間隔の街灯の光で照らされている。星空の下、広い城跡公園の縁をなぞる遊歩道を歩く。恒星の後ろ姿に離されては小走りに追いかけ、を繰り返して10分ほど。二人は銀色にそびえ立つ宇宙科学館に到着した。 「高校生二人」  入ってすぐのカウンターで支払いを済ませた恒星は、入館証のステッカーを左腕にペタンと貼った。もう一枚を貴美に差し出す。貴美がそれを受け取っても、恒星は手のひらを広げたまま動かなかった。  エスコートしていると勘違いした貴美が、鼻先をツンと上げて自分の手を重ねると、恒星は嫌そうに振り払った。 「一人五百円」
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