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ザワザワと、ザワザワと──
全身の肌が粟立つような空気が纏わり憑く。真緒梨は母の里沙と弥生伯母と手を握り、息を潜めた。
心臓が激しく脈打つ。一段と臭いが強くなる。穢れた空気を吸い込み、肺の中までもが黒く染まるように感じる。
ザワザワと──……
狙いを定めて、四方八方から微かな影が動き出した。始まりは小さな音。
ピシッ
パキ、パキパキ──……
家鳴りのような小さな音は、やがて遠慮なしの大きな音になった。ある意味慣れた、慣れてしまった音だ。
アレ、が来る。アサが──ひぐいが。
この世のものではないものが我が身に纏わり憑く恐怖。正体が判っていても身体の芯が冷える。
部屋の四隅の盛り塩は取り除いた。全ての決着を付けるには、アサの、ひぐいの全てを引き摺り出さなければならない。そのためには防御の壁を巡らせていてはそれは敵わない。
慈晏を信じている。慈晏は私を助けてくれる。老僧に渡されたお札を握り締めて、真緒梨はただ無事にことが済むことを祈った。
そうして、小さな音が鳴り出してからどれほどの時が経っただろうか。
ひ───────────────……
微かなその声に、真緒梨の身体がビクッと震える。里沙と弥生が真緒梨を抱き締めた。
あ────────────……
ひぃ───ひひぃぃぃぃぃ──────
耳を塞ぎたくなる、この世のものでない嘲笑。部屋の四方から聞こえてくる。
昨日は全てを拒絶されていたことを、ひぐいは覚えているのだろう。全ての角度から様子を見て、こちらを窺っているようだ。
ううぉぉぉおおぉぉぉぁぁあああぁぁぁ
ひ───ひぃひひひぃぃぃぃ───────
バキッバキッバキッバキッ!
咆哮と嘲笑、狂笑。
げっげっげっげっげっげっげっげっげっ
げらげらげらげらげらげげげげげげ
遮るものがないと判った魔障は、まるで嬉々としてその本性を剥き出しにする。
真緒梨たちが身を置く部屋は、水瀬家の和室。
それは揺るぎない現実であるにも関わらず、今この場は確実に深淵に立っていた。
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