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「──あれ?」
「どうしたの? 圭佑」
「気のせいか? オレ、こんなとこに痣あったっけ?」
「どこ?」
「ここ。足首んとこ」
「車の中じゃ暗くて判らないわよ。帰ったらよく見せて」
「おい、圭佑。車の中で足を上げるな」
「何だよ、親父。今気が付いたんだから仕方ないだろ」
「……全く。お前は親の言うことを一度も素直に聞いたことがないな」
「はあ?」
「ちょっと止めてよ」
「何か言ったか、圭佑」
「親だからって偉そうにすんなよな」
「何だと! お前、せっかく久し振りに外食に連れて行ってやったのに、何だその態度は!」
「たかが飯行っただけで恩着せがましい言い方だな」
「貴士! ふたりともすぐ喧嘩腰になるの止めてよ」
「ん? 何だ、これ……」
「また何か見付けたの?」
「違ぇよ……何だよ、これ」
「どれ?」
「これだよ! 目の前にあるじゃん! これ何だよ!」
「煩い! 車の中で騒ぐな!」
「ちょっとあなた、いちいち怒鳴らないでよ。圭佑、これってどれ?」
「これだよ、これ! 何だよ、これ! 気持ち悪ぃッ!」
「何にもないわよ」
「何でだよッ! これ! これだよ! うわ、動いたッ!」
「何もないわよ。どうしたって言うの?」
「ん? 何だこれ……」
「ちょっと貴士。あなたまで言い出すの?」
「違う。ほら、何か黒いのがハンドルに絡み付いて……」
「何もないわよ。何よ、ふたりとも。ふざけてるの?」
「ふざけてなんかねぇよッ! 何だよ、これッ! ネバネバして気持ち悪ぃッ!」
「や、ヤバい……」
「ちょっと、取ってくれよッ!」
「車の中じゃどうしようもないでしょ。帰ったらよく見てあげるから」
「ううわわわわわ……」
「? ちょっと、あなた。スピード出し過ぎじゃない?」
「オレじゃないッ! この黒いのがアクセルに……ッ! ハンドルも動かないんだッ!」
「ちょ、ちょっと、そこまでしないでよッ! ふざけるにも程があるわよッ!」
「ふざけてないッ! ブレーキを踏めないんだッ!」
「親父ッ! 車止めろよッ! この先カーブだろッ!?」
「やってるッ! やってるけど、脚が動かないんだッ!」
「ちょっとッ! ちょっと止めてよッ! このままじゃ落ちちゃうぅッ!」
「うあああああッ!」
「母さんッ! 親父ッ! オレまだ死にたくねぇよッ!」
「いやよ、いやああああッ!」
「死にたくないぃぃッ!」
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