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「儂も、儂の曾祖父さんから聴いた話や」
孫である青年を脇に控えさせた老僧が口を開く。
「知っておろうか。この水瀬の家は、昔から栄えとった家やった」
その言葉に、祖母がフンッと鼻を鳴らした。顔を見なくても判る。さぞかし得意気な顔をしているんだろう。
「いつのころから栄えたのか、何で栄えたのかは知らん。けど、村での行事の采配、資金出し、決定権……全部を掌握しとったらしいの」
「そうや、誇らしい御先祖様や。真緒梨もその血を受け継いどるんやで!」
「黙っとれ、おキヨ婆。主が口出しして良い結果になったことがあるかい」
「何やと!」
「嬢ちゃんは聞いたかの。この家独自の怪しい話や」
「……子どもが育ちにくいって話ですか?」
真緒梨の言葉に、老僧は深く頷いた。この現状の核心を突く話に、真緒梨は思わず護符を握り締める。
「奇怪しな話や。僅か数年やいうても、産まれた家で子を育てられん。安心出来るはずの生家が安息の場でなくなる。奇怪しな話や」
「……」
老僧の一刀で言い切る言葉に、真緒梨は一言もない。
「奇怪しな話や言っても、それが昔からのしきたりなんや。お前に文句言われる筋合いはないわ!」
祖母の言葉に、老僧は鋭いひと睨みを向ける。
「しきたり云うのはな、先人たちの失敗や知恵が戒めとして伝わるもんや。意味を理解しとらな何の意味もない。ただそれだけを阿呆みたいに守っとったって無駄やわ」
反論しようとした祖母にピシャリと言いやる。
「いい加減主は黙っとれ。儂ゃこの嬢ちゃんと話とるんや。現実に障りが起こっとるのはこの嬢ちゃんや。辛いのは主の孫娘なんやで。孫娘にいつまでも辛い思いさせたいんか」
「……私は、別に。そりゃ孫なんやで辛いことは……」
歯切れ悪く言いおいて、祖母が口籠る。小さくなった祖母の隣に弥生伯母が座り、老僧に向かって頭を下げた。
「続きを話そうかの。夜になるとまた厄介やでな」
その言葉に、真緒梨の背中を冷やりとしたものが流れた。
あの黒い影は、諦めたわけでも、消えて無くなったわけでもない。
それがどれほど恐ろしい現実であっても、目を背けることは出来ない。
「儂の曾祖父さんも、そのまた祖父さんに聴かされた話や……いつの時代の話かは定かやない」
闇や暗がりが、今よりもっと昏く、濃く、深かった時代。
すぐ隣にある夜の闇からは、まさしく異形のものや妖の息遣いが聞こえてくるよう──
生と死は、今より濃厚に密接していた。
──子どもが育ちにくい家。そう囁かれる原因。
それは、遥か昔の悲劇──……
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