第4章 祟るもの

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「儂は寺に戻って(やしろ)を祓うでな。ここは頼むで」  老僧は孫である慈晏に声をそう掛けた。 「最善を尽くします」  慈晏は短い返事を返す。 「嬢ちゃん、たくさん(よぅけ)食べとけな。こういう事案は体力勝負やでな。腹が減っとっては気力が出ん。よぅけ食べとけな」 「はい」  真緒梨は老僧に頷いたものの、告げられた()()()()()()というものがいまいち理解出来ない。いや、理解はしているつもりだが、そこに自分が加わるというのに違和感を拭えなかった。  老僧を見送ったあとは静寂が訪れた。  今の今まで揺蕩(たゆた)っていた世界が真緒梨を離さない。一度大きく深呼吸をして、現実に立ち戻る。  取り敢えず言われた通り食事の準備を始めた。老僧に説教を受けた祖母は祖父とともに部屋に閉じ籠ってしまった。 「いいのよ、放っておけばいいわ。昔から気に入らないことがあるとああなるんだから」  弥生伯母にそう言われ、祖父母の分は作らずに用意を進める。 「あの……慈晏さん。ご一緒にどうですか?」  時間的に朝昼兼用の中途半端な時間になるが、部屋の中央に座り目を瞑っている若僧に声を掛ける。 「結構です。お気になさらず」  断られればそれ以上勧めることは出来ない。 「いただきます」  真緒梨と里沙、弥生でリビングの食卓を囲み、有り合わせのもので食事を始めた。 「ねぇ、お母さん。これから何するんだろう」 「判らないけど、お祓いするのよね」 「あのおじいちゃんはそう言ってたよね。お社とこっちで同時に何かするのかな」 「アサを成仏させるのよ。無理矢理でもね。だから真緒梨ちゃんにたくさん食べて体力付けろって言ってたのよ」 「それって、やっぱり私が関係するの?」 「そりゃそうでしょう! 狙われてるのは真緒梨ちゃんなのよ」  弥生伯母のその言葉に、胃が重く沈む。自分が直面した事態に現実の色が失われて行った。 「私、今までこういうこと信じてなかった」  砂を噛むような食事を無理にでも続けながら、真緒梨は呟く。 「こういうことは本やテレビの中の世界だけだと思ってた……」 「そうね……こんなことになるなんて、まさかよね」  真緒梨と同じく箸の進まない様子の弥生伯母が相槌を打った。
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