第7章 向き合い、進むとき

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「伯母さん、ありがとう」 「お義姉さん、お世話になりました」  僅かな滞在だったのに、随分濃い滞在だった。 「ありがとう……里沙さん、真緒梨ちゃん。大変だったけど、解決して良かったわ。もうこれで変なことは起こらないわね」  祖父母にも声を掛けるべきだろうが、当の本人たちが引き籠っているために却下した。  祖母はあれほどの勢いで叩き付けられたにも関わらず、骨折はおろか、打撲程度で済んでいるのは驚きだった。  自分の受け入れ容量を遥かに越えた現実に、どうすればいいのか判らないのだろう、と弥生叔母は言う。 「あの人たちのことは気にしないで。連絡もさせないようにするし、もうここには来ない方がいいわ」  弥生叔母のその言葉に甘えて、さっさと荷物をまとめる。そして、仏壇に手を合わせただけで出てきた。 「お母さん、いいの?」  真緒梨は思わず聞いてしまった。  母がかつて愛した人──真緒梨に命を与えた父親。過去の悪夢から解放されたくて水瀬家に来たが、父の存在も無視出来ない。 「いいのよ。マオこそ、いいの? あなたのお父さん……もう会えないのよ」  記憶にない父。一緒に暮らした覚えも、遊んでもらった覚えもない。不幸を願うほどではなかったけれど、今まで生きてきて、そしてこれからの人生の中で、必要のない人。  小さく手を合わせて、別れを()げた。  ──きっと、もう、ここには来ない。 「ありがとうございました」  見送りに出て来た弥生叔母に、深々と頭を下げた。 「さて。マオ、帰ろうか」 「うん」 「お土産買ってく?」 「何を?」 「やっぱり駅の売店でういろうとか? お饅頭もいいわね」 「ういろうは一口サイズのならね。そんなに買っても食べきれないでしょ」 「帰る前に煮込みうどんも食べてこっか!」 「お母さん、それ好きだねー」  アサ──アサ。  水瀬家には来ないけど、アサには会いにくるよ。  美味しい物たくさん持ってくるから。  色んな話もするから。  私、精一杯生きるよ。  アサが守ってくれたから、今私は生きてる。  ねぇ、アサ──必ずくるよ。  吹き抜ける風は、真緒梨の元に爽やかな匂いを運んできていた──……  ~完~
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