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Prologue
その時は確実に迫っていた———
残された短い時間。その最期のひと時を、私は彼と2人だけで過ごすことに決めていた。
屋上のベンチに並んで座った途端、まるで何かから守る様に、リョウが私を抱き寄せた。私は彼の胸に頬を寄せ、心地よく響く命の音にそっと耳を澄ませる。
「もっと、早く出逢いたかったな。そしたら、もう少し長くリョウと一緒にいられたのに」
リョウは何も答えない。そのかわりに、私を包み込む腕の力を少しだけ強くした。
「ねぇ。今日は星が綺麗に見える? 」
私の問いかけに、綺麗だよ。とリョウが答える。その絞り出した様な声に、彼が泣いていることを知る。私はその美しい泣き顔を、この目で見ることが出来ない。その酷く悲しい現実が、私の胸をより一層苦しくさせるのだ。
「本当に僕を置いていくの? 」
「そうだよ。これは神様が決めたこと。だから、仕方がないんだよ」
そう。仕方のないことなの。
手さぐりでリョウの頬に手を伸ばした時、私の指先が彼の涙で濡れた。あぁ、泣かないで、リョウ。私は最後の力を振り絞って、この腕に彼を閉じ込める。
あなたは、これからも生きていくんだね。だって、こんなにもあたたかい。
「私の人生の最期に、素敵な時間をありがとう」
あなたに出逢えて、私は本当に幸せだったよ。いつか。神様のいたずらで、もう一度あなたの笑顔に出逢うことが出来たら。今度は絶対に、あなたを1人になんてしない。何があっても、ずっとずっと、そばにいる。約束だよ。
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