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Magic Chocolat 2
「神の定めたスケジュールを管理、監視しております。スケジュールに異常を確認した場合は、こうして直々に注意勧告、強いては、スケジュールの修復、記憶の書き換えなどの業務を行うこともございます。とか言ってたけど、星波にキスする必要あったかな。ないよね‼︎ あいつこの世から消えて欲しい。切実に‼︎ 」
死神に口付けられた左頬をせっせと拭ってくれながら、隼人さんが苛ついたように毒づいている。
「星波。絶対、大丈夫なわけないと思うけど、一応確認させて。大丈夫? 」
何があっても動揺しなそうな隼人さんが、酷く狼狽えている姿がなんだか微笑ましくて、ついつい頬が緩んでしまう。
「え、なんで笑ったの? シン‼︎ 星波が壊れたかも‼︎ 」
隼人さんの言葉に、キッチンでコーヒーを淹れていたシンさんが隼人さんに負けないくらい狼狽えて走ってくる。
「あ? 壊れたって? 大丈夫か、星波っ」
両肩を掴まれて、前後に激しく揺られながら、私はいよいよ笑いを堪えきれなくなった。
「あはっ。あはは」
「わぁっ。星波が壊れた‼︎ 」
「しっかりしろ‼︎ 」
正直なところ、笑うしかないじゃないか。そう思う。貴方が、本当に彼と共に生きたいと願うのなら、出来るはずです。死神はそう言った。本当に思っている。リョウさんとこれから先もずっとずっと一緒に生きていきたい。でも、こんな私に何が出来る? 自分の運命を変える? なにそれ。
「もう、本当に会えないんですね……」
その言葉と共に、私の頬を涙が伝って落ちた。私とリョウさんは住む世界が違うから、どんなにお互いが惹かれあっていても結ばれることはないんだろう。全部夢だった。夢だったのだ。
「諦めるな。まだ、方法はあるはずだ。諦めるのは、全部やりきって、それでもダメだった時だ。それからでも遅くない」
「そうだよ。星波は1人じゃない。僕たちと一緒にリョウを取り返す方法を考えよう」
大丈夫。リョウは運の強い男だから。そう言って、隼人さんが頭を撫でてくれる。諦めない。諦めたくない。そう思っているのに、溢れ出るのは涙ばかりだ。強くなりたい。強くならなきゃ。
「とりあえず、過去に飛ぶ方法を考えないとな」
「先生が使えないんだから無理じゃない? 」
「だから、そこで諦めたら全て終わりだろう」
「あ、そっか」
肩をすくめている隼人さんを見て、シンさんが盛大に息を吐く。
「銅像の先生が使えなくても、先生とコンタクトさえ取ることが出来れば過去に行くことは可能だ。先生程の魔力があれば、新しい時空間移動装置を造ることなど容易いことだ」
「先生って今どこにいるの? 」
「それが分かれば苦労しない。先生は死神から逃れる為に、お姿を変えてありとあらゆる時間軸を移動してらっしゃる。死神にマークされている先生と頻繁にコンタクトをとることは、先生にとって何も良いことなどない。魔力の流れは、あの死神共が血眼になって見張っているからな」
「先生のお力を借りるのは難しいってことだね。僕たちだけでなんとかしなきゃ。シン。こういうの得意でしょ? 良い案を考えてよ」
隼人さんの言葉に、シンさんがうな垂れたようにカフェテーブルに突っ伏し、髪の毛をかき混ぜる。
「分かってる。何か方法があるはずだ。考えろ。考えろ、俺」
シンさんがこんなに一生懸命に考えてくれているのに、当事者の私がただただ泣いているわけにはいかない。そうは思いながらも、どうしたら良いのかさっぱり分からない。
リョウさんは過去の私を事故から救い、その後の人生を変えてくれようとしていた。つまりは、私がその役目を果たさなければいけない。そういう事なのだろう。
あの誕生日の夜。孤独という闇に蝕まれた私は家を飛び出した。消えてしまいたい。そんなことを考えていた。あの日の私を、私は救うことが出来るのだろうか……。
リョウさん。どうしたら…。
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