僕はコンビニ強盗

1/8
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「金を出せ」  我ながら悲しくなるくらいに残念な、裏声混じりの情けない声が飛び出した。  手には華奢なナイフ。黒い帽子にマスクをして、黒ずくめの服装。  狙ったわけではないのに、それらしいファッションで、僕は今、こうしてまさしく、コンビニエンスストアに押しいっている。  店員の男は、どちらかというと、うんざりした様子だった。  刃物を突きつけ、声色の残念さはともかく、金を出せと叫んでいるのだから、もう少し驚いてくれてもいいのに。  今にも、やれやれとため息をつきそうな太々しい表情で、こちらを眺めている。  仕方なく、軽く咳払いをして、裏声が出ないように整えてからもう一度、同じ台詞を繰り返した。  今度は、死にたくなければ、なる使い古された枕詞のおまけつきだ。  なるほど、死にたくなければ。  そう繰り返した男は、今度は間違いなく、うんざりした様子でへらりと笑った。  何ひとつおかしいことなどないのに、呆れかえって口角が吊り上がってしまった。そんな顔だ。  首をゆるく振って、男は「ないよ」と言った。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!