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「金を出せ」
我ながら悲しくなるくらいに残念な、裏声混じりの情けない声が飛び出した。
手には華奢なナイフ。黒い帽子にマスクをして、黒ずくめの服装。
狙ったわけではないのに、それらしいファッションで、僕は今、こうしてまさしく、コンビニエンスストアに押しいっている。
店員の男は、どちらかというと、うんざりした様子だった。
刃物を突きつけ、声色の残念さはともかく、金を出せと叫んでいるのだから、もう少し驚いてくれてもいいのに。
今にも、やれやれとため息をつきそうな太々しい表情で、こちらを眺めている。
仕方なく、軽く咳払いをして、裏声が出ないように整えてからもう一度、同じ台詞を繰り返した。
今度は、死にたくなければ、なる使い古された枕詞のおまけつきだ。
なるほど、死にたくなければ。
そう繰り返した男は、今度は間違いなく、うんざりした様子でへらりと笑った。
何ひとつおかしいことなどないのに、呆れかえって口角が吊り上がってしまった。そんな顔だ。
首をゆるく振って、男は「ないよ」と言った。
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