僕が微笑むから

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 やった、やっと終わった、やっと書き上げた。やっと投稿できる。  私はデビューもしていない、小説家の卵である。卵といっても、もうじき五十代を迎える、固くなりすぎたゆでたまごみたいなものだ。  私はずっと小説家を目指していたわけではない。四十代の頃見た映画に感動して、原作の小説を読んでみた。すると、「自分でもかけるんじゃないか」などと思いあがった考えが湧いてきて、書き始めたというわけである。でも書き始めると難しさが分かってきて、起承転結がうまく決まらない。何作か応募をしてみたが、一次選考にも残らない。  そこで今回はちょっと考えを変えてみた。完全な創作物から、自分が学生だった頃を思い出して書いてみた。  作品を投稿してから三ヶ月ほど過ぎたある日、メールが届いた。一次選考通過の知らせだ。そして二次選考、最終選考と進み、なぜか入賞になった。今までは苦しみながら投稿し、一次選考も落ちまくっていたのに、今回はすんなりと入賞になった。もちろんこれはこれで嬉しいが、入賞だけではどうしようもない。ネットで紹介されただけで、印税が入るわけではない。早く次の作品を考えなければ・・・。  四苦八苦しているある日、テレビ局から連絡がきた。 「あなたの作品を番組で使いたい」  え、何だって?テレビ?ドラマ?よくわからないまま事は運んだ。どうもバラエティー番組内の10分程度のドラマらしい。それでも私にとっては世に出る初めての作品だ。無理を言って収録を見させていただいた。 「こちらが演技をしていただく、俳優のみなさんです」  プロデューサー?ディレクター?から、俳優の方々を紹介された。その中に一人、どこかで聞いたような名前の女優さんがいた。  自分の書いた文章が、俳優たちによって動いている。小説のほんの一部分だけだが、書いた自分が感動してしまった。涙を流すような内容ではなかったはずだが、ついうるっときてしまった。  放送日の二日ほど前、友人からメールが届いた。 「娘がテレビに出演する。ぜひ見てあげて」  やっぱりそうだ、友人のお嬢さんだったんだ。そういえば、友人からの年賀状には、しばらくお嬢さんの子供時代の写真が載っていた。友人の家に遊びに行った時は、まだ赤ちゃんだった彼女を抱っこしたこともある。そんなあの子が女優になった。あんなに可愛くて素敵な女優になった。しみじみとまた涙ぐんでしまう。  撮影時はカットがかかってよくわからなかったけれど、テレビの中の彼女は輝いていた。  雨のシーンで、赤い傘をクルクル回しながら、恋人役の俳優と楽しそうに笑っていた。雨なのに、全体が明るい感じになっていた。  その時の演技の評判が良かったのか、それからちょくちょく彼女をテレビで見るようになった。私はすっかり彼女のファンになってしまった。  いつか、私もがんばって売れっ子作家になりたい。そしていつか、ドラマや映画の原作になって、彼女に主演してもらいたい。そうすれば彼女や友人の笑顔を見ることができる。でも、それ以上に自分が笑顔になれるから。
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