棺桶いっぱいの金木犀

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 結局その日のうちに俺は、マンションのベランダに金木犀の鉢植えを迎え入れていた。  まだ花のつぼみも無く、ひょろひょろとした頼りない苗木。その深緑色の葉っぱを、指先でツンツンとつつく。  日当たりだけは最高に良いベランダだが、少々狭苦しい。木はやっぱり、広い土の上に植えてやらなければ可哀想な気がしてくる。  窓際にしゃがみこんで鉢植えを眺めていると、パーカーのポケットに入れた携帯電話が、ブブブと震えた。  画面を見て、小さく溜息を付いてから通話ボタンを押す。 「……もしもし」 『もしもーし、こんばんはァ。今何してんの?』  聞こえてきたのは、相変わらず能天気そうな母の声だった。 「ホームセンターで鉢植えを買ったから、それ眺めてた」 『鉢植えー? アンタそんなの、ちゃんと育てられるワケ? それで、何買ったの?』 「金木犀」  そう答えると、電話越しに母の驚く気配がした。 「……買ったはいいけど、鉢植えのままじゃやっぱり可哀想だなって、今思ってたところ。いずれ庭付きの家に引っ越す為に、せいぜい仕事頑張ろうかな」  ぼそぼそと呟くように言いながら、金木犀の葉にそっと触れる。
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