棺桶いっぱいの金木犀

1/8
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

棺桶いっぱいの金木犀

『私が死んだら、棺桶を金木犀(キンモクセイ)の花でいっぱいにしてよ!』  と、電話の向こうで母は言った。 「……お母さん」  と、子供のワガママを諭すように、俺は言う。 「棺桶に入れる花って、基本的に花屋さんで取り扱ってる花から選ぶんじゃないのかな」 『えー? 知らないよ。なんとかしようと思えば、なんとかなるんじゃないの?』 「……あのねえ、そんな葬儀屋さんを困らせるような事言わないでよ」  俺は携帯電話を耳に当てたまま、部屋の中をウロウロと歩き回った。  俺の母はおしゃべりが好きだ。  そして、よくこうやって電話をかけてきては、突拍子もないことを言い始める。  母のおしゃべりが続く間、俺は八割方、「ああ」とか「うん」とか、気のない生返事ばかりを繰り返している。  それでも母はいつも楽しそうに、何時間でも口を動かし続けるのだ。  こっちだってヒマじゃないんだからと、何度言っても聞く耳を持たない。  それどころか、「一人暮らしのアンタが寂しい思いをしないようにと思って」などと、恩着せがましい事を言い始める始末だ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!