17人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
棺桶いっぱいの金木犀
『私が死んだら、棺桶を金木犀の花でいっぱいにしてよ!』
と、電話の向こうで母は言った。
「……お母さん」
と、子供のワガママを諭すように、俺は言う。
「棺桶に入れる花って、基本的に花屋さんで取り扱ってる花から選ぶんじゃないのかな」
『えー? 知らないよ。なんとかしようと思えば、なんとかなるんじゃないの?』
「……あのねえ、そんな葬儀屋さんを困らせるような事言わないでよ」
俺は携帯電話を耳に当てたまま、部屋の中をウロウロと歩き回った。
俺の母はおしゃべりが好きだ。
そして、よくこうやって電話をかけてきては、突拍子もないことを言い始める。
母のおしゃべりが続く間、俺は八割方、「ああ」とか「うん」とか、気のない生返事ばかりを繰り返している。
それでも母はいつも楽しそうに、何時間でも口を動かし続けるのだ。
こっちだってヒマじゃないんだからと、何度言っても聞く耳を持たない。
それどころか、「一人暮らしのアンタが寂しい思いをしないようにと思って」などと、恩着せがましい事を言い始める始末だ。
最初のコメントを投稿しよう!