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しかしそれにしても、今日の母は何故唐突に、こんな事を言い出したんだろうか。
「急に死んだ後の話なんて、一体どうしたの?」
俺はベッドの縁に腰掛けて、貧乏ゆすりをしながら聞いた。
『テレビでね、エンディングノートのことを取り上げてたのよ。アンタ、知ってる?』
「エンディングノート……」
『これからの時代はね、自分の人生の終え方は自分で決める時代なんだって。どんなお葬式で見送って欲しいか、とかね。やっぱり、最後は自分らしく締めくくりたいじゃない? だからお母さんも今、エンディングノートを書き始めてるの』
「ふうん……それで、なんでまた金木犀?」
『そんなの単純に、私が一番好きな花だからに決まってんでしょ!』
とても『死』について語っているとは思えないような明るい声で、母は言った。
それから電話を切るまでの間、母は何十分も、自分の理想の臨終について語り続けていた。
そのノリはまるで、新しい趣味を見つけてはしゃいでいる、流行り物好きな若い女の子のようだった。
そのせいか、いくら話を聞いていても、『俺のお母さんも、いずれは死ぬんだなあ』なんて実感は、とても湧いてこなかった。
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