棺桶いっぱいの金木犀

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 あくまで『理想』について書いただけだと、当の本人は言うかもしれない。  だが、遺される側にしてみたらどうだ。  もし大事な人を失ったとしたら、できればその人の夢を叶えてあげたいと思うのが、人の人情というものだ。  しかし現実的には厳しいことも、中にはあるわけだ。  無駄に頭を悩ませた挙げ句、死のショックに加えて、『ああ、俺はあの人の願いを叶えてあげられないんだ……』――そんな悲しみに打ちひしがれる羽目になるなんて、誰だって御免だ。  だからエンディングノートを書くのなら、様々な視点を持った上で、それから現実的な事も考えた上で、慎重に書くべきなのだ。  それなのに、まったく俺の母ときたら、いつまでも夢見る少女みたいなことばかり言っていて、イヤになってしまう。  ――そんな母からの電話があってから、数日後のことだった。
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