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この木が大きくなり、棺桶を埋め尽くすほどの花をつけるまで、あとどれくらいの年月が必要なんだろうか。
『私が死んだら、棺桶を金木犀の花でいっぱいにして』だなんて、ちっとも現実的な話じゃない。呆れてしまう。
それなのに、この鉢植えを見て、母の顔を思い出したら、思わず買ってしまった。買わずにはいられなかった。
死のセンチメンタルとロマンチシズムに酔っているのは、もしかしたら母よりも俺の方なんじゃないか――
そんなことを考えていると、電話の向こうから、母の弾けるような笑い声が聞こえた。
『アンタ、それアレね? 私の棺桶に入れるために買ってくれたのね?!』
そう言ってまた、母はひいひいとお笑い芸人のように引き笑いする。
気恥ずかしさで、顔がカーッと燃えるように熱くなってくるのを感じる。
母はひとしきり笑った後も、語尾を震わせながら俺のことをつつき回した。
『アンタって優しいね。いつも無愛想なくせにね。そういうとこあるから、なんかいいよね』
「……」
『それにしてもさーァ、鉢植えなんでしょ? 棺桶を花でいっぱいにできるまで、あと何十年かかるワケ?』
「……うん」
『あっ、わかった!』
電話の向こうで、指をパチンと弾く音がした。
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