棺桶いっぱいの金木犀

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『それは“この金木犀が大きくなる日まで、お母さん長生きしてください”っていう、アンタからのメッセージなのね?! そうなのね?!』  自分で言っておいて、母は「イヤーッ! 恥ずかしい!」と叫びながら笑い転げている。  俺は思わず、電話を持つ方とは逆の手のひらで顔を覆い、深い深い溜息をついた。  頬が熱くて湯気が出そうだ。手のひらにも、じっとりと汗が滲む。  一体何がそんなに面白いんだ。  何かおかしいことあるか。ちくしょう。 「……ああ、そうだよ」  負けを認めるような気分で、俺はぶっきらぼうに言い放った。  そしたら母はまた笑って、 『そうね、お母さん長生きしなくっちゃ。そんで秋の金木犀の花が咲いてる間に、ピンポイントで大往生できるように頑張るわ! アハハッ!』  と言った。    頑張るって、一体何を頑張るつもりでいるんだろうか。  しかしこの母なら、本当にその通りになってしまうような気もしてくる。  俺は苦笑いをしながら、またベランダの金木犀の葉を撫でた。その深緑色に、愛着を感じ始めながら。
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