第二話 不思議な人

38/38
5593人が本棚に入れています
本棚に追加
/482ページ
彼女の笑顔がこれほど自分の心拍数に 影響を与えていることに驚いた あわてて英明は給湯器の下に潜り込んだ 今顔をみられるのはヤバい 木下静子は笑うとただの可愛い女性から 輝く美貌の持ち主に変身する どうやら自分は絶妙な タイミングで来たようだ 調べてみるとこの家の給湯器は40年前 から一切手入れをされていない パイプはサビだらけだし ボルトも配管もどこもかしこも 今にも吹き飛びそうだ 彼女はこんなくたびれた古民家に たった一人で暮らしているのだ 台風がきたらペシャンコにされそうだ 近いうちにこの家を隅々まで調べて 修理の必要な個所を見つけて 快適にしてやろう 海上自衛隊を辞め牧場経営に 精を出すようになってから 英明は経営者というよりは修理屋として 日常を過ごすほうが多かった この小さな家の配管修理ぐらいは 楽勝でできる 工具箱の中から新しいボルトと パッキンと防水シールを取りだす ボルトに集中することで とっても可愛らしくて魅力的な 木下静子先生をだらしなく見つめたくなる 気持ちをそらすことができる この人の容姿なら大都会にいても 人目を引くに違いない 豊州村でこんな女性を見かけるのは キセキとしか言いようがない 彼女が笑えば回りが明るくなった 蛍光灯を付け替えたみたいだ とにかく今はさびだらけのパイプと 水漏れのするパッキンに集中しなければ 何も手につかなくなってだらしなく いつまでも彼女を見つめてしまうだろう そんなことをすればこの先生をひどく 怖がらせてしまう事になる 彼女はそこらのヤンキー上がりの 海の女ではない 立派に教養のある教師だ そして気さくで感じの良い女性だ こんな女性を口説き落とすような魅力は 自分にはない 離婚した元妻の真由美にはいつも 無口で会話がつまらない人だと 言われていた 自分には魅力も何もない 耳触りの良い言葉も口に出来ないし 優しくエスコートすることも出来ない ただ・・・・ 彼女の家を快適に修理してやるというのは 一つの良い手かもしれない 英明のボルトを握る手に力がこもった
/482ページ

最初のコメントを投稿しよう!