サプライズ

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サプライズ

美穂は予定より早く用意を始めた。 付き合った男性の中でこんなにもウキウキするような毎日は 経験したことの無いものだった。 いつもより綺麗にメイクをするにはどうしたらいいのか、 彼に好かれるには?などとネットで検索をするようになった。 シングルマザーになってから裕福では無かったが、 それまで節約ばかりしていて衣類は最低限のものしかなかったが、 安くても見栄えの良いものは無いかとネットショップを見て回ったりした。 生活にライトがサァッと当たり夕暮れのような毎日が 朝の日差しが降り注ぎ鳥達がさえずっているような気分。 人間とは単純なもので、悪い時はとことん暗くなるものだ。 逆に良い時はとことん舞い上がる。美穂も正にいま絶頂にいる。 夜更けに何度も枕を濡らした事もあった。 夫が次から次へと浮気を繰り返し、義理の母は冷たく、 何かにつけて息子を溺愛する人だった。 事があるたびに美穂が悪いとふれまわり、 同居生活が苦しくて精神科に通いだした程だった。 やがて4度目の夫の浮気が発覚した時に浮気相手の旦那から 訴訟を起こされたのをきっかけに離婚となったが、 トラウマから男性不信に陥り、それからの彼氏とは何度も喧嘩、 相手が変わるたびに同じ結果だった。 しかし光雄は違った。美穂の深い傷を舐める事もなく さりげなく優しく包んでくれる。 精神的にも相性抜群、ルックスは一目惚れする程のタイプ。 セックスは信じられないほど匠。 理想そのものだった。唯一、年齢差が当初はネックだったが 好きになってしまえばどうでも良かった。 今日7月7日は光雄の誕生日。光雄は何も言わなかったが、 美穂は光雄の為にプレゼントを用意していた。 何が欲しいのかさりげなく聞くのに苦労をしたが、 どうやらネクタイがベストのようだったので 知り合いがパートにいるデパートの紳士服売り場で 散々迷って買った自信のネクタイだ。 シックな紺の下地にグレーのストライプ。 ダンディーな光雄には似合うだろうと思って決めた。 (スマホ電話呼び出し♪) 「美穂ちゃん?ごめん」 「光雄さん?何かあったの?もう1時間も待ってるのに」 待ち合わせ時間から1時間以上が経過していた頃に 光雄から電話が入った。 「ごめん、体調が悪くて行けそうにないんだ」 「そうなの?もっと早く言ってくれればいいのに!」 「ごめんな....この埋め合わせはきっとするから」 「もういい!で、大丈夫なの?」 「うん.....明日にでも病院に行ってくる。胸が苦しい感じなんだ」 「大丈夫?酷かったら救急でも呼んだほうがいいよ?今から行こうか?」 「うん、大丈夫....」 「そう....じゃあまた連絡する。様子教えてね」 「うんわかった...」 光雄が身体の不調を訴える事はこれまで無かった事もあって 美穂は余り深く考える事無く電話を切った。 (せっかくプレゼント渡そうと思ってたのにな。 サプライズ失敗しちゃったな)
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