シーソー

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シーソー

揺れ動いていた。 「美穂ちゃん、彼氏とはどう?付き合ってすぐだからラブラブだねー」 「うん、まあね」 (彼氏には興味が無いなんて絶対に言えない。 光雄さんの事で頭が一杯なんて絶対に言えない.... 聖子先生と一緒じゃないの...不倫は不倫。いけないよね絶対。) いつも通り子供達を保育園に送り、 カフェのアルバイトに出てきた美穂に 学生アルバイトの真美は屈託の無い笑顔で話しかけてきた 「やっぱ大人のカップルなんでしょうねえー。どんなデートするんですかあ?」 「うーん、余り会えないけどね。ご飯行ったりとか普通よ」 「へーぇ。」 今の彼はスナックのバイトをしていて 客として来ていた男性だった。 物静かで話を静かに聞くタイプ。 何となく付き合う事になった。 光雄のようにざっくばらんに打ち明け合うタイプではなく、 いつも会うとしんみりした雰囲気になった。 美穂には二面性があり 話をし始めると次から次と言葉が出てくる。 しかし相手が黙ると黙り込む。 幼い頃に厳しい父の育て方として 子供は余計なことを言うなとキツく言われた為に 雰囲気を読む癖がついていた。 今の彼は気を使う神経質な性格でドライブをしていても 美穂が黙っていると気を使い話しかけてくるのだが、 話が終わると美穂は次に話しかけてくるまで静かにする癖があるので、 彼は幾度となく、君は暗いね という言葉を投げて来た。 再三言われて来た 「暗いやつだな」 というワードには嫌悪を感じる。 暗いわけではない。 頭の中では割とお笑いとか考えてたりするし、 周りの人の話に笑いそうになったりもしているのだ。 しかしながら話しかけてくるまで こちらからズケズケと話をして 黙ってろと父親から言われたようにされたくないだけだった。 「余りしゃべらないね」 「何かあった?」 彼氏とのドライブ、食事では 頻繁に聞かれていた。 「そう?」 「何もないよ」 毎回そうした返答をするしかなかった。 本当に嫌な気分では無かったし、 確かに悩みはあるにはあったが、 2人で居る時はその場を楽しんでいた。 単に口数が少ないだけで 元夫にも、他の彼にも心配され、 挙句には 「暗い女」 という嫌な女にされてしまう。 セックスに関しても同じ具合で 自ら進んで希望を言った事がないし、 寧ろ自らの欲望を悟られまいとした。 元夫とは苦痛の日々が続いた。人並み以下の夫の精力とテクニックは 不満の極みであったが新婚当時はともかく、 3年、4年経過すると美穂を抱く回数は微々たるもので 挙句に浮気に走る始末だった 途中勇気を出して美穂から誘った事があるが 冷たくあしらわれ拒否されたショックは甚大で、 2度と誘うまいと頑なになった。 美穂の人に合わせるという性質は 実は本質は純粋で優しい性格が助長したものだったのだ。 「美穂さん、彼氏ですか?」 「え?」 「ほら、来てますよ?」 開店寸前のカフェの大きなガラスの前で 光雄が手を振っていた 「光雄さん!」 入り口に駆け寄ると 息を弾ませて話しかけた 「いやぁ、仕事で近くに来てね。 覗いたら美穂ちゃんが見えたもんだからさ」 「昨日ごめんねー、子供が中々寝なくて。LINE返せなかったの」 「いいよいいよ。じゃ、またね」 「あ、寂しいなあ〜 笑」 「バイトでしょ?がんばってね!」 「ありがとう。またね」 予想外な時間に会えた歓びで ウキウキしながらバイトをこなした 美穂の頭の中は光雄の占める割合が増えていき、 シーソーのように彼氏と光雄が右へ左へと上下していく。 暫くは右が上がり、左が上がり 彼氏と光雄の比重は交互に変わっていたが、 ここ最近はシーソーは光雄側が常に地面に付きっぱなしになっていた 迷っているようで実は最初から決まっていたのかもしれない。
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