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午後17:00
「午後17:00でした。」
美穂が光雄の部屋から着替えや髭剃りなど一式を持ち
再度病院に戻ると光雄から鼓動が消えていた。
親族の数名が集まっており本妻は、
おおよそ別人のように目を腫らして泣きじゃくっていた。
美穂は腰から力が抜け落ち、その場に倒れこんだ。
光雄が亡くなった.....。
「どうしてなんですか!!!!!!!なんでですか!!!!!」
出した事が無いような声量でその場に居合わせた医師に食って掛かった
意識が混乱し、状況が呑み込めない。昨夜からまるで
映画の中を掛けているような凄まじい状況変化に狂いそうだった。
「肝臓よ....」
冴子が絞るような声で美穂に言った。
「肝臓....」
医師が続ける
「彼は昨夜の段階で肝性脳症だった可能性があります。
搬送された時点で昏睡状態だったので処置をしましたら
一応は回復を認められていました。」
更にもう一人の主治医が続けた
「肝臓機能が著しく低下していたものと思われます。
肝臓機能が激しく低下するとアンモニアの解毒が出来ずに
アンモニア濃度が上昇するのです。それが脳に達すると脳症の原因になります。他にも肝臓機能低下による合併症も多く認められますが
今回の主な原因は脳症だと判断しています。」
「貴方、気を落としちゃだめよ」
冴子がメイクの崩れた顔で美穂に語りかけた。
「奥様....」
美穂は親族が集まると聞き、静かに病院を後にしようとした。
すかさず冴子が美穂に続けた
「貴方、携帯番号を教えて頂戴。通夜や葬儀は出るわよね?」
有り得ないと思った。
事実上、不倫相手だ。
世間では不倫相手が葬儀等に出ていく話を聞くが
おおよそまともな事になっていない。
事実自分は不倫相手だったわけだけれど。
行く資格など無いと思っていた。
「私が葬儀に?」
「いいのよ。どういう関係かなんか言わないから。
私は貴方が居てくれて、あの人は幸せだったんじゃないかと思うのよ」
「すみません、何も知らなかったものですから」
「貴方も可哀そうなものね」
「いえ、そういうつもりはありません!」
「そう。なら良かった。携帯番号を。また連絡するわ」
美穂と冴子は携帯番号を交換すると病院で別れた。
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