パズル

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パズル

「あ、はい!少しですが詳しいかもです!!」 美穂は出来る限り好意が伝わるよう持ち得る力を全力で返した 「そうなんだ。流石だね。良かったら教えてくれないかな? あ、仕事中なのにゴメンね。急に。」 「いえ、大丈夫です!あのすみませんあと10分くらいで バイト時間終わりなんです。お待ち頂けますか?すぐですから」 「いいの?僕は大丈夫だけど」 美穂にしては有り得ない行動だった。 これまで男性に見せた事がない行動だった。自分でも驚く程で、 若干妄想癖のある美穂は頭の中でパズルを思い描いていた。 パズルの完成形は彼とのゴールイン。 彼と進展する為にパズルをどう並べるのかをイメージした。 ああして、こうして、こうなって、、 更衣室で私服に慌てて着替えながら ブツブツ言いながら乙女に帰っていた 「すいません、おまたせしました」 まさか着替えて出てくるとは思わなかった光雄はニコッと微笑むと礼をした 「ごめんね、じゃ教えてくれる?」 「はい。どこか行きます?」 その場で話を聞くだけだと思っていた光雄は 驚くと共に鼓動が踊るのを感じた。 光雄は会社経営で生活には余裕があったが 結婚10年以上の妻とは不仲で3年の別居生活をしている最中だった。 割と真面目な所があって既婚者には間違いないのだからと 気安く女性を口説いたりは意識的にしてこなかった。 「え?と。いいのかな?大丈夫?僕はいいけど?」 「あ、はい!」 「じゃ、そこにある居酒屋?行きたい所あれば。」 「じゃあ、駅前近くのおススメの居酒屋さん行きませんか? 貝が美味しいんですよ。気に入ったらお友達と利用したらいいかなって」 「そか、じゃそうしよう。お酒は大丈夫なの?時間は?」 「あ、大丈夫です。子供がいますけど今日は預けてますから」 「え?結婚してるの?ダメじゃ?」 「あ、シングルです。見えませんか?笑」 「あ、失礼。見えないよ。若いし」 「若くないですよ〜」 2人は居酒屋のカウンターに並んで座った。 美穂にとっては何年ぶりの男性とのやり取りで気分が高揚するのがわかった。 「ここ、はまぐりが美味しいんですよ。」 「おススメなの注文してくれる?勿論僕がご馳走するから」 「いいんですか?有難うございます。 これと、これ、これ、あ、この和牛のやつも最高なんですよー」 屈託の無い美穂の横顔に思わず見惚れていた光雄に気づいた美穂は 「なんかついてます?」 少しわざとらしく聞いてみた 「いや、綺麗だよねえ。モテるでしょ」 出た。この言葉は幾度となく過去に聞いた言葉だ。 大体例外なく美穂を探る言葉で興味がある場合に言われる言葉のチョイスだ。 頭の中でパズルが1枚1枚ハマっていく。 どうすればパズルが完成するのか。 美穂は1枚1枚のパズルの意味や思惑は 経験から熟知していたが 例の性格上、パズルを自ずから完成させた事がない。 地団駄踏んでいる自分がいた。 「モテるなんて。おばちゃんでバツイチだしシングルですから。ダメですよ」 思っても無い事が口から出る。 貴方が世界で一番タイプです! 何とか私を抱いてくれませんか! この言葉を今すぐ言えたらどんだけ楽だろう。 そして黙って抱いてくれたらどんだけ良いだろうか。 今日もまた昔から変わらず 胸の中の本音と、実際の態度には大きな隔たりがあるのであった。 「君が、あ、名前は?聞いてなかったね 笑」 「美穂です。西田美穂」 「美穂さんか。僕は平山光雄。宜しく」 「美穂さんとか、、美穂ちゃんでいいです 笑」 「じゃ、美穂ちゃんで。美穂ちゃんはいくつなの?見た感じ凄く若いよね?」 「若いですか??24歳です。」 「若いよ〜」 「光雄さんはいくつなんですか?」 「51歳だよ。お父さんより上じゃないの? 笑」 「え?51なんですか?びっくりです!見えないですね〜。 35歳くらいかなって。まあ年齢関係ないですけど。 父親は母親より25歳上なんですよ」 「25歳?そうなんだ!年の差婚なんだね。まあ今は多いよね」 「あんまり抵抗ないと言うか私は年上しか無理なんですよねー。 同級生とか全く無理」 「そうなんだ。あ、ハイボール追加するけど、まだ飲むかい?」 「あ、生追加いいですか?」 「ハイボールと生!あと唐揚を二人前!」 居酒屋のカウンターで2人は 互いのこれまでの生い立ちや最近の事について話をした 「美穂ちゃんは彼氏とか作らないの?」 「光雄さんは浮気しないの?笑 だって奥さんと3年も別居なんですよね?別れてるようなものじゃ?」 「まあね、離婚は今年にはするんだよね。 ちょっと子供の事があって3年たっちゃったな」 「浮気というかまあ、、、誰でもいいってわけじゃないからさ。 僕も若くないし 笑」 「あ、もう出来ないんだ〜!」 口が滑ってしまった。 光雄に夢中になる余り口から出てしまった。 「出来るよ〜」 「うそだぁ」 「バリバリだよ!毎日するし。あ、ごめん」 「え?え?毎日するの?彼女と?」 「いや、もう恥ずかしいから。 こんなおじさんが何言ってんだか。忘れて。」 「彼女いるんだね。そりゃそうか。格好いいもんねえ。 凄く。羨ましいなあ彼女さん。あ、ごめんなさい!」 「いや、、いないよ彼女なんか。」 「え?もしかして1人で毎日?」 「もういいじゃん、、。なんでこんな話になったんだろう。」 「1人で?もったいない!」 「え?」 堪らなくなった美穂は露骨に言ってしまった。 「美穂ちゃんは彼氏はいるんでしょ?」 「興味ないでしょう?」 「無いけど。」 「え? 笑」 「うそだよ、あるから聞いてる」 頭の中でパズルパズルと唱えていた美穂だったが お酒が進む毎にどうでも良くなってきた。 寧ろ光雄がまるでスムーズに対応してくれるお陰で 自然に美穂のベールが剥がれていく 「いるよ。いるけどねえ、、ハァ、」 「やっぱいるんだ。20代?」 「30代。」 「ちょうどいいね。 彼氏いるのに僕と2人で居酒屋さん大丈夫だったの? 連絡しといた?」 「してない。なんていうか、、」 「ん?付き合ってるんでしょ?もう長いの? あ、嫌なら言わなくていいよ。楽しくお酒飲もう。 変に誘ったりとかじゃないからさ。 ごめんねなんか。嫌なオッサンだよな」 「いや、そんなんじゃないよ。付き合って半月くらいなんだ。 いま。けど遠くてなかなか会えなくてさ。 私がこんなんだから余計悪いの」 「こんなん?何もおかしくないけど?」 「まあ寂しがりというか、メンタル弱いというか、、、 彼はつらいかも。会えないのはつらいね」 「なるほどねえ」 光雄は必要以上には聞かなかった。 他の男性なら執拗に聞いてくるはずなのに。 寧ろ新鮮で光雄に対する興味を押し殺す事が出来なくなっていった。 「光雄さん、LINE交換してくれませんか?迷惑ですかね」 「いや、彼氏いるのにいいの?」 「大丈夫です。」 この日は光雄に予定があるからという事で 2人はこの店に2時間程滞在して別れた。
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