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三分ほど殴り続けただろうか。いつの間にか狂鳴人はピクリとも動かなくなっていた。サトルは鼻息荒く、肩を上下させながら動かなくなった狂鳴人を見下ろす。頭部から流れる大量の血は、人間の時と変わらず赤黒い。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
自分の木刀についた血と動かなくなった狂鳴人を交互に見つめるサトル。平和だった頃の日本で今のこの光景を見た人間が居れば、自分は女性を容赦なく殴り殺す血も涙も無い殺人鬼なのだろうとサトルは思った。
『今の日本は殺らなければ殺られる世界……。俺は、麻耶に会うまで死ねないんだ……』
自分がやった行為を無理やり正当化した瞬間、木刀を持つサトルの右手は震えだした。その時、停止していた狂鳴人の右手がピクリと動いたかと思うと、蛇が噛みつくようにサトルの左足首を掴む。
「くっ……」
サトルは身体をビクつかせながら、木刀の尖端を狂鳴人の手の甲に突き下ろした。
バキッという骨が砕ける音が響くと同時に、狂鳴人は再び動きを停止させる。
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