独占欲

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「遅い……」 俺こと海野健次は、恋人である奇子の帰りを待ち続けている。夕方に課題を今日中に終わらせないといけないから遅くなると連絡があったが、それっきりだ。 時刻は10時半。いくらなんでも遅すぎる。 恋人だからという贔屓目を差し引いても、奇子は可愛らしい顔立ちをしている。もしかしたらひとりで夜道を歩いて、不審者に襲われたんじゃないか? 誘拐でもされていないか? 秒針が鳴るにつれて、不安が募る。充電が切れているのか、電話に出なければメールの返事もない。 「行くか……」 探しに行こうと立ち上がった瞬間、来店を知らせるベルが鳴った。そちらを見れば、奇子が遠慮がちに入ってくる。 「遅い」 「すいません、なかなか終わらなくて……。充電も、切れてしまって……」 奇子は眉尻を下げながら申し訳なさそうに言う。反省しているのなら、これ以上責める気はない。 「エスプレッソでも飲むか?」 「はい」 俺が厨房に行くと、奇子は俺が座っていたテーブル席に座る。 ふたり分のエスプレッソを淹れると、奇子の後ろからテーブルに置く。その流れで奇子を後ろから抱きしめて片手で視界を奪い、手の自由を奪ってやる。 心配させられたことへのちょっとした復讐だ。 「健次さん……?」 不安気な声で呼ばれると、虐めたくなるってのに。 「あんまり心配させんなよ……」 耳元で囁き、そのまま耳にキスをする。 帰り道の心配もあったが、他の男が以前の秋明のように同じテーブル席に座ったりしないか、気が気でなかった。 奇子はいい加減、俺が独占欲が強い男だと気づくべきだ。
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